入学式の日、近いとは言いづらい壇上に上がった彼の瞳の色がはっきり見えた。外国を思わせる海のような、冷たさも暖かさも孕んだ色合いは宝石だとかそういう気品にも溢れていた。自分の小ささが見えるような気がして、目をそらしたのを覚えている。
 どういうわけだか恋に落ちた。彼の性格や情報は噂やその目立つ言動である程度分かったし、友達の中には彼を嫌っている子もいたし、そもそも話したことも関わりもないのにどういうわけだか恋に落ちた。それはもう、急に足元に穴が出来たみたいにヒュンッと落ちたのだ。
 どういうわけだか生徒会に入った。先輩の推薦で入るとその年の会長は跡部くんになり、初めて彼に話しかけられた言葉は「そんなに緊張するなよ」だった。ガッチガチだった私は、どもって返事をして笑われた。青い瞳が細くなったからか、眩しくなって直視なんかできなかった。
 どういうわけだか告白された。目の前には跡部くん、全く予想だにしなかった。「お前が好きだ」という言葉の意味を私は知っているのになかなか理解できていない気がする、理解できていないくせに顔は熱くて汗が出て、やっぱり跡部くんの瞳が見れなくて下を向く。何度話しても何度笑いあっても目を合わせることはなかなかできなかった。
 逃げたい。それが本音だったけど逃げちゃいけないことくらい私にだって分かる、二人きりの生徒会室は静かで、ブーブーと跡部くんのポケットの中から携帯が鳴ったのがやたらと響いた。跡部くんは携帯なんか気にもせずずっと私を見ている。青い視線に私は敏感だ。

「あの、跡部くん、携帯…」
「…逃げたいだろ?」
「えっ、あ、っと…」
「だろうな」

 跡部くんはいつものように、からかうみたいに笑った。携帯を取り出して何かのボタンを押してまたポケットに押し込む。多分電源を切ったのだろう。あと二つの携帯も鳴ればいいのに、とか思うけれど、それは何の解決にならないのは知っている。
 また跡部くんが真っ直ぐ私を見つめた。たまらず目を伏せる。「返事は?」という言葉と共に、跡部くんは私の頬に手を添えた。あぁ、ずるい、この人私の答えなんか分かってるんじゃないか、と恥ずかしくて逃げたいのに嬉しくなった。跡部くんの体温が頬を伝わって私の脳を揺さぶるから混乱する、思わず口を開いた。

「わ、私、そんなに綺麗じゃないし…」
「綺麗っつーか可愛いの部類だな」
「! そ、それにスタイルも頭も悪いよ」
「仮にそうだとして、何の言い訳になる?」
「…私、目も合わせられないよ」
「理由は?」

 ぐい、と私の両頬を上げて跡部くんは私の顔を上げさせた。得意げに笑う跡部くんと目が合って、すぐそらす。おら、と急かすように咎めるように跡部くんが私の頬を軽くつねるから何だか笑ってしまった。言葉にするのってどこまでも恥ずかしいけど、言わなきゃ通じないんだよね、うん、頑張る。

「跡部くんが、好きだから」

 汗も出るくらい熱くて、跡部くんが見つめれば見つめるほど赤くなっていってる気がした。跡部くんはフッと笑って、私の頬を撫でるようにしてから離したからつい目を見てしまった。

「それでいい」

 跡部くんの目が嬉しがってるように見えちゃって、もう、跡部くんたらどこまで私を虜にするんだろうか。


20110508
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