ナマエー、茶ーとやってきたのは桃と越前くんで、近くにあったボトルを二人に渡すと桃はニヤニヤしながらこう言った。

「あ、俺邪魔っすかね?」

 めんどくさい奴だ。付き合っているからと言ってそんなに露骨にいちゃつくのは趣味じゃないし、越前くんもそのタイプだろう。ましてや部活中だ、そんなことをしたらあの鬼の部長に怒られる。そしてグラウンド100周とか言われる。すると越前くんは相変わらずの態度で桃に言い放った。

「そっスね、どっか行ってください桃先輩」
「ったく可愛くねーな。こんな奴のどこがいいんだか!」
「少なくとも桃よりはいいかな」
「はいはい、お邪魔虫は消えますよっと」

 そう言いながら桃はボトルを持ったまま歩いて行った。それを見送ると越前くんがこっちを向いて、目が合って笑う。なんだか可笑しい。

「桃面白いな〜」
「…そういえばさっき桃先輩から」
「ん?」
「部長とナマエ先輩が幼なじみって聞いたんですけど」
「あぁ、うん、そうだよ。家では国光くんって呼んでるからたまに間違って呼んじゃうんだよね」

 ふと視線を国光くんに向ければ、相変わらず真面目にコート内を見ては何かをアドバイスしていた。昔から変わらない、むしろ昔から想定していたように育ったなぁと家族と話したことを思い出した。ぽつりと越前くんが呟く。

「なんか、違和感スね、その呼び方」
「そうかな?私はもう慣れちゃってるけど」
「…ふぅん」
「え、何…?あ、もしかして越前くんも下の名前で呼んでほしいとか?」
「だったら何?」
「えっ…よ、呼ぶよ?いいの?」
「いいも何も」
「だ、よね、うん」

 何となく恥ずかしがる私に対して、越前くんはいつも通りふてぶてしくてドリンクを飲みながら私を見ている。大きな瞳が辛い、恥ずかしい。聞き慣れたテニスボールを打つ音がだんだん小さくなっていくような気がするくらいドキドキして、思わず目をそらすと三年生が練習していたコートで休憩が始まっていたから慌ててタオルとドリンクを掴んだ。それに気づいたリョーマくんが止めるように私を呼ぶ。

「ナマエ先輩」
「ちょっと向こう行ってくるね、リョーマ、くんっ」

 リョーマ、リョーマ、リョーマって!国光くんって言うときより何倍も何十倍も恥ずかしいし緊張する、変な歩き方になってないかな、とか思ってたら後ろから彼のハスキーな声が拗ねたように「逃げた」と言うのが聞こえて少し笑えた。
 三年生の元に行くと、菊丸先輩が楽しそうに私を見て言った。

「噂をすればなんとやら」
「そうだね」
「?私の噂ですか?」

 クスクス笑う菊丸先輩と不二先輩は何だか教えてくれそうにないから大石先輩に視線を向けると、大石先輩は気まずそうに恥ずかしそうに笑った。

「いや…ちょっと越前とかの話をね」
「あー…」
「顔が赤いね、ナマエちゃん。何かあった?」
「ドリンクどうぞ!」

 何でも分かってそうな不二先輩にそう言われたから余計恥ずかしくて、すかさずドリンクを差し出した。名前を呼ぶくらいで恥ずかしいくらい照れたなんてことからかわれたらそれこそ恥ずかしい。国光くんなら大丈夫なのになぁ、とちらりと国光くんを見れば国光くんは「?」という顔で私からドリンクを受け取った。

「何だ?」
「…何でもないよ」
「それにしても手塚は寂しくなるね」
「ほんとほんと、娘みたいに可愛がってるのにおチビにとられちゃってさ」
「こら英二…」
「妹じゃなくて娘ですか…」
「手塚からしてみれば娘が他の男にとられたって感じじゃないかな?ねぇ手塚」
「…そうかもしれないな」

 不二先輩の問に国光くんは顎に手を当てて真面目に考えながらそう答えた。国光くん、それお父さんだよ、老けてるって言われてるようなもんだよ、と思っていたらふざけて不二先輩が「父親って大変だね」と言うからつい笑ってしまった。父親じゃないのに国光くんは聞いていないのか「ん…」とか言うんだもん、こらえていたのに隣で大石先輩もこらえ笑いをしていたから耐えきれなくて笑ってしまった。リョーマくん、私と結婚するときはお父さん二人を相手にしなきゃね、こりゃ大変。


20110505
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