ソファーに座ると、花粉が隠れていたのかくしゃみが出て、目の前のテーブルに肘をついてテレビを見ていたナマエの肩がビクッ!と跳ね上がった。そんなにびっくりするか、と思ったがナマエは心臓を押さえながら「ビビったー」と振り向く。テーブルの上のティッシュを素早く取って鼻をかむのと目が合うのは同時で、ナマエはなぜか笑う。

「何だよ」

 鼻はムズムズするし話しづらいし、いつもより低めの声でそう言ってティッシュをゴミ箱に投げ捨てた。ナマエはテーブルに置いてあるティッシュの箱を持って俺の隣に座る。

「花粉症お疲れ様でーす」
「てめ…っ」

 頭を叩いてやろうかと手を上げたが、息を吸った瞬間に鼻がぴりっと痛んだ。やばい、くる。動作がピタッと止まった俺にナマエは楽しそうに耳を塞いだ。そんなにでけぇくしゃみじゃねぇよ、と言いたかったのに代わりにくしゃみが出る。ナマエは拍子に目を瞑るし、そんな人のくしゃみを衝撃波みたいに扱うなと言いたい。が、それすら叶わないくらい鼻がムズムズする。

「くしゃみがオッサンだよ良則くん」
「うるせぇよ…」

 怒る気力もない、俺はナマエの持ったティッシュ箱からティッシュを取って鼻をかみ、ぐったり膝に肘をつけてうなだれた。健康には気を使う方だとは思うが花粉症だけはどうにもならない。
 あーイライラする、こっちは外でやる職業なんだぞ花粉てめぇ。
 イライラしながらぼんやりする頭に手を当てて黙っていたらナマエが声をかけてきた。

「お薬飲む?」
「…」
「あ、そういえばね、薬局で薬剤師さんに聞いたんだけど甜茶っていうお茶が花粉症にいいんだって。それで買ってみたんだけど…」
「…」
「えっと、良則くん?大丈夫?甜茶飲める?淹れようか?」
「…」

 さっきまでからかってたくせに、ナマエは何も喋らなくなった俺に急にあたふたし始めた。ナマエは花粉症じゃないから花粉症の辛さがわからない。だから俺がよっぽど辛いのだろうと判断したのだと思う。風邪引いたときも怪我したときもそうだ、こっちがびっくりするくらいナマエは心配するし、治すためにいろんなことに気を回してくれる。
 あーくそ、鼻が詰まってイライラする、喋るのも億劫だ、頭がボーっとするし、動きたくもない。
 ちらりと見れば、ナマエはティッシュの箱を持ったまま黙ってジッと俺を見ている。心配そうな表情に思わず情けなくなった。
 お前はそんな顔をしなくていいのに、お前は薬やら甜茶やら、薬剤師に聞いてまで俺のためにしてくれたんだから、と思いながらも絶えず襲う倦怠感に打ち勝てず、ふとめんどくせぇと思った。
 めんどくせぇ、めんどくせぇ、もう全部めんどくせぇ。ナマエが小さく俺を呼ぶ、「良則くん」ああもうそんな悲しそうな声出すなめんどくせぇ、これで全部伝われ。

「え、わっ」

 ぐわっと抱き締めると、ナマエはソファーに倒れ込んだ。あたふたするナマエの頭を撫でながら、ぼんやりした脳内でナマエのことをできた嫁だと思った。

「よ、良則くん」
「…ナマエ」
「はいっ」
「茶」
「あ、はい!」

 体を浮かすと、すぐさまナマエはキッチンに向かう。そのままソファーに沈み込めば、また鼻がムズムズし始めてあっという間にくしゃみが出た。やべ、ティッシュ、どこだ。手を伸ばすと俺のくしゃみに反応したナマエがティッシュの箱を持ってきて「大丈夫?」と俺の顔を覗き込んだ。大丈夫だから早く甜茶とやらを淹れてくれ、できた嫁。あぁそれとティッシュさんきゅーな、できた嫁。


20110427
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