センター試験の前日、家に帰ると玄関に合格祈願の御守りや札がたくさんあって一瞬動作が止まった。おかえり、と玄関までやってきた母はニコニコしながら私に言った。

「静雄くん家のみんながナマエにって。お礼してきなさい、静雄くんに」

 静雄だけって何じゃそりゃ。
 家が隣で親同士が仲良く、子供同士の私たちも幼なじみとして生活してきたからか、私と静雄が付き合うことに親たちはそれはそれは歓迎して、今では何かと仲良くさせたがる。確かにしばらく学校で忙しく会ってなかったし、と私は帰ってきた足でそのまま隣の家に向かった。ピンポーンとチャイムを鳴らし、しばらくしてバタバタと出てきたのは制服姿の静雄だった。

「…よ」
「よう」
「すごいバタバタ出てきたね」
「二階にいたのにお袋がナマエだから出ろってよ」
「うちも、平和島家からいろいろ貰ったのに静雄にお礼言ってこいって」
「あ、あがれよ。風邪引くぞ、明日試験なのに」
「じゃ、お邪魔します」

 静雄がドアを大きく開け、私を入れてくれた。そのまま慣れた廊下を歩いてリビングに入り、静雄のお母さんを見つけて頭を下げた。

「あらナマエちゃんっ」
「御守りとかありがとう、明日頑張ります!」
「わざわざお礼なんか良かったのに。ほら静雄、部屋に案内しなさい」
「今更案内なんかしなくても分かるだろ。っつか勉強いいのか、お前」
「帰ったらちょっとするよ。先生たちも今日はリラックスしろって言ってるし」
「そっか。大丈夫なのか?」
「ほらほら、立ち話しないで部屋に行きなさいっ」

 静雄のお母さんは楽しそうに私たちをリビングから追い払い、静雄は少し恥ずかしそうに母親を睨んだから笑った。こんな日常もなんか久しぶりだなぁ、安心する。
 静雄の部屋も久しぶりだった。相変わらず綺麗とは言い難いけどとりあえずベッドに背を預けて床に座った。静雄は私の前に座る。

「お久しぶりです」
「そうだな」
「正月から学校でなかなか会えなかったもんね」
「…大丈夫か?」
「何が?」
「明日本番だろ、その…ここにいる時間が勿体ねぇっつーか」
「勿体なくなんかないよ。それに今までやるべきことはやったから、あとはその力を出し切るだけだし落ちても自分のせいって割り切ってる」
「お前な…」
「なんか静雄の方が緊張してるみたい」
「…かもな」
「嬉しい」
「あ?」
「嬉しい、ありがとう」
「何がだよ…」
「そんな風に応援してくれる人がいて幸せだよ、私。静雄や幽やお母さんたちがいてくれて、だから頑張れたんだよ」
「…何もしてねぇよ、俺」
「静雄の存在に助けられたんだってば。受かっちゃったらみんなにありがとうって言いまくってやるもんね、落ちても言うけどさ、本当に、家族っていいね、静雄」
「…」
「私ん家も静雄ん家も私にとっては家族だよ」

 そう言ったら静雄にキスされた。真っ赤な顔をした静雄は目を逸らす。昔から、何となくだけで静雄の考えることが分かってしまうので時たま困ってしまう。キスより静雄が考えているであろうことに顔が熱くなった。きっと静雄ははっきりと言わないと思うから、何だか私が言わなきゃいけないというか言いたいと思うと照れた勢いか、口が勝手に動いてしまう。

「いつか本当に家族になりたいよ、ね、うん…」
「…おう」

 頭がいっぱいいっぱいだ、明日、何かを思いだそうとしたらこの会話の記憶が邪魔しそうだと嬉しいような困るような気持ちでこっそり静雄を盗み見たら、静雄は口に手を当ててひたすら視線を泳がせていた。

「あーもー、やだ、全部忘れたい」
「な、何がだよ」
「静雄の顔をフビライ・ハンとかに置き換えたい」
「誰だソレ…」
「じゃないと静雄の顔が試験中に浮かんじゃうもん、あー最悪」
「あぁ!?最悪ってなんだ!」
「静雄のせいで落ちる〜」
「そ、そういうこと言うんじゃねぇよ!」


20110114
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