ドーン!と大きな音がしたと思ったら、神楽ちゃんが吹っ飛んできた。神楽ちゃんの小さな体はソファーにぶつかり、玄関まで大破したのか、木の欠片やガラスが居間まで一緒に飛ばされてきて被害こそ受けなかったものの、私の体は動くことができなかった。心臓がバックンバックンいってるし、少し足が震える。持っていた湯飲みをやっと置いて、神楽ちゃんに声をかけようとしたら神楽ちゃんは勢いよく起き上がって(私はまたびっくりして声も出なかった)、「こんのクソガキィィィィ!!!」と外へ飛び出して行った。えぇぇぇ。
 咄嗟にどうしよう、とも考えれないでいるとカンカンカンと誰かが階段を上がってくる音がした。多分この駆け方は銀ちゃんだ。二段飛ばしくらいで走ってる。銀ちゃんの足音はスピードを緩めることなく居間までやってきた。

「ナマエ!」

 大声で呼ばれて、つい肩がはね上がった。息を切らした土足の銀ちゃんは私を見るなり駆け寄って、持っていたスーパーの袋を投げ捨て、私の肩を掴む。

「怪我は?」
「え、な、ないよ?」
「…え?まったく?」
「うん」
「お前…」

 すげぇ運だな、と銀ちゃんが呟きながら私の肩を掴んだまま項垂れた。たしかに、冷静に考えてみたらその通りだ。もし仮に私が神楽ちゃんが飛んできた方にいたら、怪我どころじゃ済まなかったかもしれない。改めて心臓がドキドキしてきた。なんてラッキーなんだろうか。

「何だったの?神楽ちゃん大丈夫?」
「いつもの、ほら、真選組の沖田くんとの喧嘩、バズーカ。あいつなら大丈夫だろ、また行ったし」

 銀ちゃんは私の肩から手を離して、あたりを見渡した。いろいろ飛び散っていて危ないにも程がある。

「掃除しなきゃね」
「お前は座ってろ、裸足だろ」
「靴持ってきて」
「いいっつーの。ったく、怪我しなかったから良かったけどよォ」
「心配してくれてありがと、銀ちゃん」
「ばっ、違ぇよ、神楽にゃ説教だなって話だ」
「いいよ、いつものじゃれあいじゃん」
「じゃれあいで死人は出ねぇよ」
「だから、出てないじゃん」
「でも」
「しつこいなー、銀ちゃんなんかいっつも死にかけて帰ってきたりするじゃん」

 冗談半分、そう言ってみたら銀ちゃんはホウキを持ったまま固まって私を見つめた。何とも言えない顔をしている。傷つけたかもしれない、繊細なところがあるから。でも銀ちゃんの繊細なところは本当に見えにくいから私は繊細なところに触れてからやっと気づく。今みたいに。そんなつもりじゃなかったのに。
 何とか笑って、銀ちゃんに言った。

「いつもの私の気持ち、分かった?」
「…おう、キンタマがヒュウってなった」
「最低」
「…ごめんな」
「何が?」
「そんな顔させて」

 銀ちゃんが私を抱き締める。抱き締めかえしたら、銀ちゃんの大きな鼓動が私の繊細なところを揺らした。さっきの方が怖かったはずなのに、今さら、泣きそう。


100218

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