愛は世界を救う!らしい。らしいというのは皮肉である、私はそうは思わない。実際世界を救うのは利益だ。金や権力という利益があってこそ人間は動き、それを求めるべく努力するのだ。愛は美しいものかもしれないが、愛だけでは何もできない。

「そう思わないかね財前くん」
「はぁ」

 財前は興味なさそうな声でそう言い、さっき買った缶のお汁粉を寒そうに啜った。バス停には私たち以外いなくて、ベンチの温度がしばらく座ってやっと人肌になるくらい寒い。寒いなら待たんで早よ帰ればええのに、と思いつつ財前の素っ気ない優しさは嬉しかった。私も倣うように温かいココアを啜る。
 寒くて死にそうや、むしろ死にたい、地球温暖化ってほんまかい、こないに寒いのに。

「…愛が世界を救うんなら地球温暖化も止まるやろうなぁ。あ、でも利益でも止まらんし、別に利益が世界を救うわけでもあらへんな」
「結局何が世界を救うんスか」
「…何やろ」
「アホか」
「せやな、ほんま何やろ」
「あんだけ偉そうに言っとって」
「やかまし」

 財前を睨むけれど財前は飄々としている。確かに偉そうやったかもしれへんけど、確実に愛では世界は救えへん、それだけは言える。もう一度ココアを飲むとバスがやってきた。

「来た」
「ほな先輩」
「ん、待っててくれてありがとうな」
「一応彼女やから」
「一応って何やねん」
「それと、俺の世界は多分先輩の愛で救われたんやと思います」
「へっ」
「俺の世界だけやけど」

 急にさらっとそんなことを言うもんだからびっくりして、どうしたらいいか考えていたらバスが止まってドアが開いた。早よ乗らな、という気持ちとまだ財前といたいという気持ちが戦って足が動かないでいると財前は「早よ乗れ」というからバスに乗った。すぐ近くの座席に座って財前を見ると私なんか見てなくてイヤホンを取り出して耳につけていた。バスのドアが閉まってゆっくり動き出すとそれに気づいた財前は右手を軽く上げたから私も上げる。
 私の愛は財前の世界だけを救えるらしい。でも財前の愛も私の世界を救うのは間違いなくて、事実さっきまで寒くて死にそうだったのに財前とまだいたいなんて思ってしまった、愛ってスゴいやん。

101217

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