「もう、本当に何度起こしても起きないんだから。私だって忙しいんですよ、それで達海さんが練習に遅れたら怒られるのは私なんですからね、そこらへんのとこ分かってるんですか?」
「ん、よーく分かったよ。そこの醤油とって」
「…」

 達海さんは朝ごはんの目玉焼きをもぐもぐ食べながら私の近くに置いてある醤油に視線をやった。じろりと睨んだけれど私を一度も見ずに咀嚼を繰り返している。私が醤油を掴んで、倒れない程度にドンと彼の前に置くと彼はやっと私を見てきょとんと呟いた。

「何怒ってんの?」
「…別に!」

 立ち上がって達海さんの部屋を出た。後ろで「何よー」という達海さんの声を聞きながらため息をついた。私は達海さんがまたチームのために相手チームを研究して徹夜したのを知っている。なのに怒っちゃって、自分勝手だということに自己嫌悪と罪悪感が大きく重く圧し掛かってきた。もう一度ため息をつき、次に喋る時は普通に接しよう、むしろ優しくしよう、っていうか謝ろうと決める。

 お昼前、太陽が真上でさんさんと照っている中、有里に頼まれて達海さんを呼び出すべくグラウンドに向かった。風が冷たいけれど太陽が暖かくて気持ちいい。有里に頼まれた時は何も思わなかったけれど、朝のことを思い出して少し憂鬱になった。達海さんが怒っているとは思えない、けど。
 グラウンドに行けば選手たちがミニゲームをしていた。達海さんを探すと選手たちに大声で指示をしていてすぐ気付く。その大声に少し怖気づいたけれどさり気なく近づいて声をかけた。

「達海さん」
「おーナマエ」

 振り向いてくれたのはいつもの達海さんでホッとして思わず笑顔がこぼれた。子供みたいなところをある人だけどやっぱり大人だなぁと自分の若さが恥ずかしく思える。やっぱりごめんなさいと謝るべきだと達海さんを見上げれば先に口を開かれた。

「どったの?」
「あ、えっと、有里が呼んでて…」
「あー、なんか言ってたっけ、そういえば」

 めんどくさいなぁと達海さんは言いながら欠伸をする。何だか謝るタイミングを逃してしまった、というかこれから話題を変えて謝るのは少し恥ずかしい。これも若さが邪魔するものだろうか、情けないなぁ。
 仕事に戻ろうかどうか悩んでいると達海さんがふと私を見下ろした。何を考えているか分からない目で、私はついビビってしまう。達海さんは一度口を開いたけれどまた閉じて、でももう一度口を開いて言う。

「朝飯、美味かったよ」

 何それずるい。
 私は嬉しいやら情けないやら恥ずかしいやらで目を逸らして、何かを言おうとしたけれど言えなくて、何度も口を開いたり閉じたりした。すると達海さんは笑って、「明日もよろしく」と言う。きっと明日も私はぷりぷり怒って、彼はこうやって大人の力でなかったことにするに違いない。

101217

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