「あーお腹痛い…」
「どうした?」
「生理」
「!」

 私が発した言葉に一護は伸ばしかけていた手を「やべっ」というようにでも戻した。そのまま手も視線を泳がせる。

「なに恥ずかしがってんの、あんたも私もこの現象がなきゃここにいないんだよ?」
「…」
「この現象の一歩手前で頑張った一心さんの精…」
「あー分かったから!悪かったっつーの!」

 一護はさっき私に触れようとした手で私の口を塞いだ。大きくて綺麗な手だ。私はその手を掴んで口から放し、指を絡める。驚いた一護は少し顔が赤かった。

「悪くはないけど、触っちゃいけないみたいな顔しないでよ」
「…悪ィ」

 一護が申し訳なさそうな声を出したから私まで切なくなった。本当に、一護は悪くない。謝って欲しかったわけでもない。ただ伝えたかっただけで別に反省しろとか後悔しろとかそういうんじゃなかったけど伝わらなかった。一護のした行動の意味も、何となく分かるのだ。全然悪いことなんてない。と言ってもまた一護は謝るだろうから言わないことにした。
 尚もじんじんと痛む下腹部は私の思考さえも邪魔をして、考えるのも何をするにも嫌になる。このまま意識を手放せたら楽だなあ、とぼんやり考えた。

「痛むか?」
「うん…」
「顔色良くねぇぞ」

 そう言って一護は繋いでいない方の手で私の頬を撫でるように触った。暖かくて気持ちがいい、安心する。ぼんやりとする思考の中で、一護もお父さんになるんだろうなぁと想像してみた。こんな大きくて暖かくて優しい手で赤ちゃんを触るのだろうと思うと、痛みより苦しさを覚えた。その赤ちゃんが私との赤ちゃんだったら、すごく嬉しい。

「一護」
「何だ?」
「寝る…」
「おう、ベッド行けよ」
「膝枕がいい…」
「アホ」

 一護が呆れた顔で私を抱き上げ、ベッドに転がした。うっ。せめてもうちょっと優しくおろしてくれたっていいじゃないか。布団が乱暴にかけられて、一護の乱暴な手もおりてきて私の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。薄く目を開けたら一護がちょっと心配そうな顔をしていたから声をかけた。

「一護との子供を生むための準備だよ」

 赤くなった一護が私の頭まで布団をかぶせてきて視界が一気に暗くなった。私はいつか保健の授業で見た、まだお腹の中にいる赤ちゃんみたいに体を曲げて、一護の匂いがするシーツを握りしめた。目を瞑る。きっと私たちは生まれてくる子供を精一杯愛せるだろう、と言いようもない気持ちになった。あ、違う、子供たち、か。

「二人は欲しいよね…」
「黙って寝ろ」
「あでっ」


100218

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