悠太専用のマグカップを割ってしまった。洗ってる途中、手元から床に真っ逆さまに落ちるマグカップを見ながら私はこれまでにないほどの鳥肌を立てて、そんな自分にもびっくりしたし、意外に大きかった音にもびっくりしたし、サッと悠太がやってきたことにもびっくりした。「大丈夫?怪我は?」という口調はいつも通りだけど動きが早くて愛を感じたのだ、少し笑いそうになる。

「靴下履いてるし怪我はないけど、ごめん、悠太の」
「いいよ、それより動かないでね」
「ん」

 悠太は跪きながらマグカップの大きめな欠片を拾った。小さな破片は後で取るらしいけど、悠太の分け目を見ながら私はどうしようもない罪悪感にかられる。

「ごめん、悠太」
「いいよって言ったよね」
「でも、うん、ごめん」
「誰でもするでしょ、こんなの」
「悠太もしたことある?」
「…マグカップじゃないけど、小さい頃に父さんの大事なお皿を割ったことがあるよ」
「悠太が?」
「うん。そのときは祐希が共犯になってくれて、隠した。土に」
「…祐希くん優しいね、可愛い」
「昔はね」

 悠太は笑ってるのか分からないけど口調は穏やかで、大きめの破片を綺麗な手に乗せると新聞紙を持ってきてそこに置いた。

「ガムテープはいつものとこ?」
「うん、ごめん」
「いいよ」

 優しいし、テキパキとやってのける姿がかっこいい。つくづく私はできた彼氏を持ったものだ。
 悠太はガムテープを丸くしてペタペタと床にくっつけては離す。可愛い音を聞きながら見る悠太の分け目が何故か微笑ましくて笑った。すると悠太がふとつぶやく。

「何かを割る瞬間ってさ」
「ん?」
「鳥肌たつよね」
「あぁ、うん、すごく」
「ね」


101125

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