耳を塞ぎたくなるほど大きな音が部屋に響いた。恋次に蹴られて綺麗に吹っ飛んだ椅子は、程よく大きな音を立てて倒れる。頭がガンガンするくらいの轟音だった。斬られた傷が共鳴するように痛む。

「恋、次」
「くそ…!」
「…ごめん」
「お前が悪いんじゃねぇだろ!」

 たしかに、私はただ虚と戦って負傷しただけだ。恋次の行き場のない怒りは、私を守れなかったという悔しさらしい。それこそ、恋次が悪いわけではないのに恋次もたいがい私が好きだ。嬉しかったけれど、仕事として虚を逃がしてしまった情けなさの方が心の内の割合を占めていた。
 恋次が蹴った椅子がうらやましい。私だってあんな風に蹴られたい。そしたら虚が消えていくみたいに消えてしまえる気がするのだ。今の私の心情からすると、多分そう考えるのも一種の気の迷いなんだろうけど、今はひたすらそう思う。情けない、情けない、虚を逃がしてしまった上にこんな怪我までしてしまって、恋次にあんな思いまでさせて、情けない、情けない、いなくなってしまいたい。

「恋次」

 呼ぶと、恋次は振り向いた。何とも言えない切なそうな顔をしている。その顔に私まで切なくなって泣きそうになった。消えてしまいたい。恋次をこんな風に切なくさせてしまう私を、すぐに消してしまいたい。
恋次は何を思ったのか、私を強く抱き締めた。そうじゃない、そうじゃなくて、私を消してよ、恋次。
 ぎゅう、と更に恋次の力が強くなると、未練がましく私の腕が伸びて恋次の背中にしがみついた。また恋次の力が強くなる。死んでも死にきれないなぁ、これは。


100213

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