自分のコンディションには敏感だと思う。足に関してもそうだけど、体調もだ。その日は起きたときから調子が悪かった。体温計で計れば平熱を大幅に上回っていて、それを自覚した途端にぼぉっと頭が揺れる。急に部屋が広く感じられて、言い様もない不安が少しよぎった。これはよっぽどだ、とナマエにメールをするとナマエはすぐやってきた。すぐやってきたくせにそんな時間どこにあったんだってくらいドラッグストアで買ってきたであろう飲み物や食べ物を持ってきた。
ナマエが早くベッドに行けと急かすからベッドに潜り込むとナマエは冷蔵庫を開けて買ってきたものを入れたり中身を漁ったりしていた。さっきまで広かった部屋はナマエの存在で狭いとは言い難いが、ちょうどいいくらいになったと思う。どこにいようとナマエの存在を感じられるこの部屋がとてつもなく気持ちが良かった。頭がガンガン揺れて、呼吸がし辛いから目を瞑って寝ようとした。出来ればナマエを抱き締めて寝たいけれど高確率でうつしてしまうだろう。そう考えるとさすがにそんなことはできない。
眉間に皺を寄せて、ナマエのことを考えた。どこまで考えたかは覚えていないが、気づいたら寝ていたらしく朝の空気ではないなと感じた。近くの時計は昼前をさしていて、だいぶ眠ったと体を起こす。
「起きた?大丈夫?はい、たくさん水分とってね」
ナマエは僕の返事も聞かずにペットボトルの水を差し出した。喉も渇いていたからそれを大人しく飲むと、ナマエの小さくてひんやりと柔らかい手が僕の額に当てられる。あぁ、ナマエはどこもかしこも気持ちいいなぁと目を瞑った。
「まだ高いみたいだね、寝た方がいいよ。お腹すいた?そういえば朝ご飯食べたの?」
「食べてないけど食欲がないからいいよ…」
「それはダメだよ、たくさん水分とってたくさん食べて汗かいて寝なきゃ。ちょっとでも食べよう、おかゆ作ったから」
またもやナマエは有無をいわせずキッチンに向かった。何だか急に力が抜けて、またベッドに倒れる。体を横にして目を瞑るとナマエがキッチンでがたごとと何かをしている音がして、その音で何をしているのか想像してみた。カチッとおかゆを温めるために火を点けて、その間にガチャガチャとレンゲを探している。「あった」と言いかけて「あっ…」とナマエはつぶやくけれど、多分何かと間違えたのだろう、すぐに「違った」という独り言が聞こえた。ガチャガチャという音がやみ、今度はおかゆがどれだけ暖まったかをナマエは確かめている。大丈夫だ、とお盆に新しい水のペットボトルとレンゲと土鍋を乗せて、ナマエがこっちまでやってきた。
全て想像だけれど、ほとんど合ってるのだと思う。そして全てが可愛いと思った。ぼんやりする頭では何度もナマエが可愛い、ナマエが可愛い、という台詞を反芻させていた。全てが可愛い、落とさないようにとゆっくりと歩いてくる足音や、ベッドサイドのテーブルにゆっくりとお盆を置く音でさえ可愛い。
「ジーノ?」
眉間に皺を寄せて閉じていた目を開けるとナマエが僕の顔をのぞき込んでいた。体が熱くて、体中の器官がものすごく重たく機能している、呼吸するのさえ苦しくて息が荒いのが自分でも分かった。ナマエが小さくか細い声で「苦しいの?」と僕の頬に手を添える。気持ちいい、体中の器官がナマエの気持ちよさに歓喜して無理に機能しようとしてるみたいだ、苦しい、すごく苦しいよ。
「きみがすきすぎてくるしい」
ナマエは一瞬呆れたけれど、すぐに笑って僕の額にキスをした。筋肉痛みたいに重い腕をナマエの首に回すと、触れたところがまたひどく気持ち良くて体中が歓喜した。
100906