恋とは甘酸っぱいものらしい。甘酸っぱいってどんな味だろうか。果物やお菓子を思い出し、そんな恋をしただろうかとさらに思い出してみる。するとその考えを邪魔するようにコーヒーのいい香りが漂ってきて、キッチンに視線をやれば恭弥がコーヒーを淹れていた。私も、と声をかけると自分で淹れなよという返事が返ってくるけれど恭弥は二個目のマグカップを取り出す。優しい。

「そのにやけ顔を早くやめないと咬み殺すよ」
「優しい恭弥くんはそんなことしないよ」
「誰それ?」
「あ、ミルクと砂糖もね」

 そう言うと恭弥は顔をしかめて、それでもやっぱりミルクと砂糖を淹れてくれた。わざわざスプーンで底の方まで混ぜてくれたし、わざわざ私の所までマグカップを持ってきてくれる。

「さすが優しい恭弥くん」
「咬み殺すよ」

 恭弥はブラックのコーヒーに口をつけ、私の隣に座った。私も恭弥が作ってくれたコーヒーに口をつける。甘くて優しい味がした。この味をあの恭弥が作るんだからなかなか可笑しい。またにやけ顔をしてしまい、恭弥はまた顔をしかめた。その顔が何だか可愛くて愛しくて、コーヒーが一層美味しく感じられる。
 私は恋をしているけれど甘酸っぱくはないな、とふと思った。むしろこのコーヒーくらい甘いんじゃないんだろうか。恭弥といればいつだって幸せで溶けそうなくらいだから、甘酸っぱいなんてちょっと嫌だ。

「やっぱり甘い方が好きだな」
「いつまでも子供舌だね、君は」

 小さく恭弥が笑う。甘い。口内と脳内が幸せだ。思わず「幸せ」と呟くと、恭弥はテーブルにコーヒーを置いて私の唇を塞いだ。私が今の今まで飲んでいたコーヒーよりずっと苦いコーヒーの味が口内を支配していくのに脳内は溶けそうなくらいだった。唇を離すと恭弥が小さく「甘い」と呟くから「恋は甘いものなんだよ」と言ったらもう一度キスをされた。苦いのも悪くない。

100816

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