歳を取った、と人に言われるのも自分で言うのも嫌だったが彼に久しぶりに会ったとき自然に笑顔と一緒に出たのは「お互い歳取ったね」だった。私は彼より三つ年下だけれどそれでも私と彼が恋人同士だったのは10年前だから過ぎた20代は私にとっては「若かった」のだ。
 10年前、彼がイングランドに行くと言ったときに何故私も行かなかったのだろうと後悔したことは何度もあったが、後悔しなかったこともある。私の中で彼はとても大きな存在だったということは間違いなかったけれど彼がイングランドへ行った状況や心境を考えると自分も頑張らないといけないと思えた。それで得たものは大きい。特に仕事ではこの若さで同期に差をつけて上司となった。仕事は楽しい、そのおかげで同期は寿退社を決めていくけれど。

「老けたって言いたいけど、私もなのよね」
「もうその発言からして老けてんもんな」
「何よ」
「あ、ヒステリー?」

 そう言う猛は10年前とほとんど変わらなかった、怒るのも馬鹿らしい。猛の言うとおり、私は中身まで老けてしまったのかもしれないと急に恥ずかしくなって視線をグラウンドに向ける。猛のチームの選手たちが練習をしているのを見ながら思わず「懐かしい」と笑みをこぼした。

「昔はよく見に来てたなぁ」
「あー最近のETU弱ぇからな」
「馬鹿、猛を見に来てたの」
「あぁ、そう」
「もう足は大丈夫なの?」
「手術はしたから昔よりはな。もうサッカーはできねぇけど」
「…そ、っか」
「…何でそんな顔すんの」
「猛からサッカー取るのは酷だよ」
「別に取られたわけじゃねぇよ、監督だってやってる」
「でも、辛いじゃない」

 語尾が震えてしまったのを隠すように笑った。私の視線はグラウンドに向いたままで、猛はずっと私を見ている。

「ナマエ」

 久しぶりに名前を呼ばれていろんな記憶が湧いてでる。それを押し込めて「何?」とグラウンドに夢中なふりをした。

「こっち向け、俺が辛そうに見えるか?」
「…見えない」
「確かにサッカーができないのは悔しいよ、でも後悔はしてない」
「うん…」
「今はナマエが俺以上に辛そうなのが辛いし、あの時ナマエを連れて行かなかったことを後悔してる」
「え…、…え?」
「お前嫁の貰い手いんの?」
「…貰ってくれるの?」
「俺たちもう歳だろ、そういう」
「歳って…」
「次はイングランドだろうがブラジルだろうが連れて行くからな」
「…うん」

 静かに涙を拭くと、猛は笑いながら袖で私の目を強引に拭った。その適当加減が幸せで、笑いながらも怒っていたら練習を終えた選手たちが走ってきて私を見てやいやいと騒ぎ始める。「監督の恋人っすか!?」という声に「10年前のね。今日からカミさん」と答えて周りが騒然としたことは言うまでもないだろう。

100727

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