体育祭の日、プログラムを後ろに回すときに指を切ってしまった。直感的に「あ、やっちゃった」と思ったあとすぐにヒリヒリと痛み出してうっすらと血が出てくる。傷口のすぐ下を親指で押すとジワジワと赤いものが溢れた。

「うわ、痛ぇだろソレ」

 隣の席はやる気満々の宍戸だった。宍戸は私の傷を見てすごく嫌そうな顔をする。そうでもないよ、と答えたら宍戸は鞄をごそごそとあさり始める。そして宍戸が顔を上げると同時に私の机に絆創膏が投げられる。

「…よく持ってたね」
「テニスしてるとしょっちゅう怪我するからな。今日は体育祭だしよ」
「なるほど。ありがとね」
「おう」

 にかっと笑う宍戸につられて笑う。体育祭が楽しみで仕方がない、という感情がひしひしと伝わってきて面白い。

 体育祭が終わり、宍戸から貰った絆創膏は水やら砂やらのおかげで剥がれかけていた。ぴろぴろと動く部分が鬱陶しいけれど外すのは少し怖い。
 負けてしまったものの、興奮が冷めない教室内はざわめいている。そこにやってきた担任さえもいつもは怒る場面だが優しい目で私たちを見ていた。その姿に先生を見直す子もいたが、私は少し気持ち悪いように感じる。担任は大きく手を叩くと、機嫌のよさそうな声で差し入れがあることを叫んだ。さらにざわつく教室は歓声と拍手で埋め尽くされて担任の声がよく聞こえなくなったが、しばらくするとみんなが教室を出て行ったので、あぁ手を洗うのかと判断して私も友達と教室を出ることにした。
 教室前の水道には汗と砂臭いクラスメイトがざわざわと群がっている。何とか列に並んで蛇口を捻ると思ったよりも水圧が強くて、少し手を洗うと絆創膏がするりと流れていった。思わず「あっ」と声を出すと、隣の男子が流れた絆創膏を見て笑う。宍戸だ。顔が日焼けで真っ赤になっていて笑えたけれど多分私も一緒だから笑えない。

「ごめん、流れちゃった」
「いや、いいけどよ。もう大丈夫か?」
「大丈夫みたい、痛くないし。…あ」

 水に濡れても痛くないのを確認しながら手のひらを裏返すと、絆創膏を貼っていた部分が見事に日焼けをしていてみっともなくなっていた。それに気づいた宍戸が「うわ、激ダサ」と笑った。

「うるさい」
「なんかあれみたいだな」
「あれ?」
「結婚指輪」

 宍戸は私の左手の薬指を指さすと、すぐに固まった。不覚にもドキッとしてしまって反射的に宍戸を見上げると、日焼けで真っ赤になった宍戸の顔が更に真っ赤になっていた。笑いたかったけれど多分私も一緒だから笑えない。

100725
季節外れですいません

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