私が一目惚れして買ってしまった可愛らしい灰皿の中には静雄がスパスパ吸っている煙草の吸い殻が溜まっている。買ったものの、私は煙草を吸わないからと静雄の家に持ってきたものだ。静雄は嫌がると思ったけれど「サンキュ」と受け取った。嫌がりはしなかったけど嬉しそうでもなかった。静雄にとってデザインなんてどうでもいいものだろうとは思っていたけど、今現在イライラしながら煙草を吸っている静雄と可愛らしい灰皿を見ているとアンバランスすぎて笑ってしまいそうになる。
 静雄がイライラしているのはもちろん臨也のせいだ。先ほど臨也を見つけた静雄はいつも通り追いかけて殺そうとしたけどいつも通り逃げられた。臨也に偶然会う前は二人でトムさんの失敗談で笑って和やかに過ごしてたのに、臨也に会った途端に静雄は豹変した。水が急に沸騰したときみたいな怒りで、そのたびに今みたいに煙草を馬鹿みたいに吸うから身体に悪そうだなぁと思う。
 チッ、と静雄が舌打ちしたから見れば、静雄の手の中には空になった煙草のパッケージがあった。いつの間にか全部吸い尽くしてしまったらしい。静雄は立ち上がっていつも煙草のストックを置いている所に行くけれど、また舌打ちをするだけだった。どうやらストックもないらしい。

「吸いすぎはよくないよ」
「…」
「口寂しいなら飴でも食べたら?」

 ポケットから飴を出してテーブルに置き、灰皿を取ってゴミを処理するために台所へ行く。自分で買ってきた可愛い灰皿を洗うことは苦じゃない。静雄の煙草の吸い殻が置かれるのも嫌じゃないけれど静雄の心を一新させるためにも灰皿を洗った方がいいと思った。
 灰皿を綺麗に洗って戻ると、大人しく飴をなめている静雄がいた。小さく笑って座り、静雄を見つめたら静雄はきょとんと「何だ?」と言う。

「いや、可愛いなぁって」
「男に可愛いとか言うんじゃねぇよ」
「可愛いよ、飴食べてるし灰皿もこんな可愛いの使ってるし」
「全部お前のだろうが」
「普通の男の人は使ってくれないよ」
「使えりゃなんでもいい」
「うん、使ってくれてありがとう」
「…別に」
「あ、照れた。やっぱり可愛い」
「怒るぞ」

100713


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