「雨とか水が目に入ると痛いじゃない?でも涙は目に入ってもっていうか涙を流しても目が痛まないでしょ、それは涙が優しい成分でできてるからだと思うのよ」

 一言、どんな成分だとつっこみたい。
 至極真面目な顔でそう言ったナマエは満足そうに俺を見上げた。どうだ!と言わんばかりである。俺は軽くため息をつき、ナマエが飲んでいた酒を奪って飲んだ。甘めでアルコールを感じさせない酒だ、ナマエは酔っているみたいだが俺にとっては面白味がない。

「あ、こら、今日が誕生日でも成人はまだでしょ!」
「こんな酒飲んだって酔いやしねーや」
「何本も飲んでればじわじわ酔うのよ」

 気持ちよさそうにナマエは言うと、俺から酒を取り上げて飲み干した。
 俺の誕生日祝いだという名目で開かれた宴の音が聞こえる。大人たちは酔って主賓を差し置いて飲み比べをし始めやがった。楽しかったが、ナマエがいないことに気づいて部屋から出ればナマエが一人で月見をするように飲んでいた。ほんのり赤くなった頬が月で光って、安っぽい色気を感じる。

「お酒も目に入ったら痛いのよねぇ、飲むとこんなに美味しいのに」
「痛いのは当たり前でさァ」
「そうだけどさ、そう考えるとますます涙ってすごいと思わない?どんだけ身体に優しいのよって」

 そんなことを考えるのはナマエだけだと思った。涙が痛いとか痛くないとか、俺にとってはどうでもいいしナマエがこうして話題に出さなかったら一生気づかなかったことだろう。
 ナマエがいなかったら気づかなかっただろうことを気づくのは嬉しくもあり悔しくもあった。やっぱり年上であるナマエには勝てないのだと思ってしまう。恋愛に年齢は関係ないというが、こうして俺が毎回惨めな気持ちになるのは大きな障害じゃないだろうか。と、思うことがきっとナマエからしてみればガキかもしれない。今日また一つ歳をとったというのに早く大人になりたいと思う。

「でさ、涙は身体に優しいわけだけどさ、例えば総悟の涙が私の目に入ったら痛いのかなぁとか思う訳よ」

 どこまでもどうでもいい話だ。酔ったナマエは些か子供らしく見えて心地よい。可愛いと言ったら照れるだろうか、とS心がくすぐられた。

「ねぇ総悟、どう思う?」
「試してみれば分かりまさァ」
「…あんまり総悟が泣くのは見たくないかな」
「俺が泣くと思うんですかィ?」
「俺は泣かないって?馬鹿ね」

 ナマエが大人らしく笑うから急に恥ずかしくなった。見栄を張らずにナマエの前じゃ泣きたくないと言えば良かった。いや、それも恥ずかしいか。これだから年上はやりにくい。
 自分でも変な表情をしたと思う。ナマエは呆れたように笑って、俺を抱きしめた。

「誕生日おめでとう」

 どうしようもなく泣きたくなった。人間はきっと優しさでできてるから涙は身体に優しいのだと思ってしまうくらい、静かに優しく涙が落ちた。


100711
遅れたけど誕生日おめでとう!

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -