馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまで馬鹿だと呆れるを通り越して不憫になってくる、とかナマエを見ながら俺は考えた。ナマエの手には赤いペンで苛立ち気に書かれた0という数字が悲しいテスト用紙がある。ちなみに教科は数学。
 ナマエはテスト用紙を見ながらうなだれ、言葉を発しようとしない。俺はどう慰めようか思考を巡らせていたが、さすがに0点をプラスに変換できるような言葉は思い浮かばなかった。気まずい上に申し訳なくなって意味もなくナマエの机を爪で叩く。するとナマエが急に顔を上げて俺に言った。

「なんか清々しいね!」
「お前の頭がな」

 落ち込んでいると思いきや、全く落ち込んでいないどころかナマエは少し嬉しそうだった。0点なんて初めて見たーと他人事のようにテスト用紙を眺めている。馬鹿だ、こいつ馬鹿だ。

「お前危機感とかねぇのか」
「何で?」
「今年受験だぞ?」
「そうだねぇ、土方くんは何になるの?」

 やっぱり馬鹿だこいつ。自分のことは全く考えてないし、むしろ考えるという選択肢がないのだろう。
 へらりと笑うナマエを見ながら、こんな馬鹿が好きな俺こそ馬鹿だなと思った。本当にこんな女のどこがいいんだろうか。馬鹿のくせに落ち着きもない。この間なんか国語の授業中、急に当てられて焦ったのか国語の教科書を銀八に見せるように上げて「教科書間違えました!」と大声で言った。「いや、それで合ってるからね」と呆れる銀八に何故か俺が恥ずかしくなって顔が熱くなったものだ。やっぱり俺も馬鹿だからこの馬鹿が好きなんだろうか。本当に恋っつーもんは意味が分からねぇ、望んだ理想とはかけ離れた現実を欲してしまう。たまにこれは恋じゃなくて別のモンじゃないんだろうかと思ってしまうくらいナマエのことを考えて、頭がガンガン鳴り響くことだってあるのだ。今も、0点をキラキラした目で見つめる彼女を哀れんでるのか呆れてるのか本気で分からなくなってきた。あ、やべ、頭痛ぇ。

「どうしたの土方くん」
「いや…頭が…」
「土方くんは頭良いから難しいこといっぱい考えるんだろうなぁ」
「確実にお前よりはな。お前もたまには頭使えよ」
「私は難しいこと嫌いだもん」

 そう言い切ってナマエはテスト用紙を丁寧にファイルに入れた。まるで100点を取ったから親に見せようとしている小学生のようだ。
 そんなナマエにまた頭が痛くなったが、考えるのはやめた。何故ナマエが好きかなんて簡単なことだ、恋してしまったから仕方がない。

100629

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テーマ「人外ファンタジー」
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