「ナマエはピアス開けないのかい?」
私の耳たぶを掴みながら臨也がそう言った。いつも通り薄くて綺麗に整った笑顔をしている。
「なんか、抵抗があって」
「そこまで痛くないと思うけど」
「痛みじゃなくて、ほら、身体に穴を開けるのが」
「親がくれた身体を傷つけたくないって?」
ハハッ!と可笑しそうに臨也は笑った。さっきとは違う笑顔にぞくりとする。彼の笑顔をみれると嬉しい、なんて感情は私にはない。コロコロ変わる笑顔に恐怖が大半を占めている。ただ臨也の笑顔を見ると少しだけドキッとしてしまうのはやはり臨也が好きだからだろう。身体は素直というやつだ。
臨也は私の耳たぶから手を放して私の髪の毛を撫でた。
「髪の毛を切るくせに?爪も切るしムダ毛も剃るのに?それは矛盾だねぇ、ナマエ。親からもらった身体は傷つけられないってよく言うけど、そういうやつほど髪をすごい色に染めていたりする、化粧で素顔を隠そうとする。あぁ、ナマエは綺麗な黒髪だしよくスッピンでいるし俺は大好きだよ?」
君を否定してるわけじゃない、と臨也は嘘臭い笑顔をする。別に心の底から親からもらった身体を傷つけたくないなんて思ってるわけじゃないし、というか私はそんなことを言ってない。ムカつきもしなかった。軽く臨也嬉しそうだなぁ、と思うだけである。
「怒った?」
「別に。で?ピアス開けてほしいの?」
「まさか!何でナマエの身体に穴を開けなきゃいけないんだい?」
「あぁ、そう」
「俺が開けるなら開けてもいいよ?」
「…開けるときはね」
「痛くないようにしてあげるよ」
「逆に怖い」
「酷いなぁ、君にはこんなに優しいのに」
「そうね」
臨也なら誰にでも言ってそうだ。一応彼女という名目ではあるけどそんな女の子はたくさんいるんじゃないかと思う。もしかしたら彼氏だっているかもしれない。私が知らないところで本当に予想もつかないことをしているのが臨也だ。
「ああ、でも君に似合うピアスをよく見るよ」
「何それ」
「君のことをよく考えるってこと」
「逆に怖い」
「君は俺を何だと思ってるんだい?」
「怖い」
臨也は怖い。最初はそうでもなかったが、知れば知るほど怖い。臨也を知るくせに分からなくなる。その気になれば私なんかすぐ消すこともできるのだろうと思う。それも、自分の手を汚さずに。
臨也は相も変わらず笑っていた。嬉しそうな、楽しそうな笑顔だ。
「酷いなぁ、君にはこんなに優しいのに」
さっきと同じ言葉だ。ゲームみたいに、この男の脳内には「対女性用受け答えマニュアル」があるかもしれない。そんな印象が浮かぶような台詞にため息をつきそうになった。
臨也は私の髪の毛を一束掴み、笑う。
「何なら髪も爪もぜーんぶ俺が切ってあげるよ」
ズタズタにね、と付け加えられたような気がした。
100530