キスをするのが嫌だ。キスをするくらいなら抱き締めたり抱き締められたり手を繋いだりした方が全然好きだし気持ちいいし愛されてると実感する。そもそも唇を重ね合わせるだけの行為が何故恋人同士でしかできないような行為なのだろうか。外国にしろ、キス=大切な人とする行為となっている。唇をくっつけるだけなのに。
 蔵の顔が近づいてくる。蔵の肌は綺麗で、化粧をすれば映えるんじゃないかと考えながら蔵と私の口の間に手を入れた。蔵はちょっと不機嫌そうな顔をして「何?」と言う。

「キスは嫌やって言うたやん」
「一回くらいええやん」
「キスとかしても価値あらへんやろ」
「…俺が嫌い?」
「そんなんやなくて」

 蔵は私から離れ、少しため息をついた。あぐらをかき、足の間に手を入れるとTシャツから蔵の綺麗な鎖骨が浮かび上がってドキリとした。やっぱり私は蔵を嫌いでキスを拒んでるわけじゃない。意味が無さすぎて虚しくなるのだ。抱き締めてくれたりすれば体温を共有させることができて落ち着くし気持ちいいしけれど、キスは何も得られない。特に深くないキスは「…これだけ?」と思ってしまう。
 蔵は不満なのか呆れてるのか分からない顔で笑い、ため息と一緒に言う。

「ほな誕生日プレゼントいらへんかなキスしよ」
「本気で言うてんの?」
「俺らほとんどキスしてへんやん」
「キスが何やねん」
「ナマエにちゅうしたいねん」
「意味分からん」
「逆に何でナマエがキス嫌いなんかが分からん」
「百回言うたやんか」
「それでも分からん、俺はナマエが好きやからキスしたい。他の女の子にそんなん思わん」
「それが何なん?あたしはキス嫌いや。意味ない。虚しくなるねん、キスよりギュッとしてくれた方が嬉しい」
「…」

 蔵は優しいし大人だから私の考えを理解しようとする。逆に私は子供だから嫌なことは嫌だときっぱり断るのがいつもだ。今日はなかなかしつこい。たしかに今日は蔵の誕生日だし、キスくらいしてもいいかなと思うけど進んでしたくはない。蔵が完璧に拗ねたらしよう、と思うくらいだ。

「ごめん」

 急に蔵はそう言って私の腕を強く掴んだ。痛いくらい掴むもんだから文句を言おうとしたら蔵は強引に私にキスをする。噛みつくようなキスだったけれど味わうように口づけた後、すぐに蔵は離れた。
 恥ずかしくて顔が真っ赤になった。それを見た蔵が可笑しそうに笑うから悔しくて、でも心から怒る気になれないのはやっぱり蔵が好きだからで、何となく蔵がキスをしたがる理由が分かった気がした。
 蔵がとても愛しく思えて、蔵がとても可愛く思えて、思わず小さく呟く。

「蔵にちゅうしたい」

 どこでもいいから、と付け加えたら今度は蔵が真っ赤になって「あ、いや、嫌や」と逃げようとし始める。可愛いなぁ、と逃げる蔵の耳にキスをしたら蔵の唇から色っぽくて可愛い女の子みたいな声が出て笑えた。


100520
誕生日遅れてごめんね…

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