銀ちゃんは変な嘘をつく。変なくせにちょっとメルヘンチックな嘘を。

「銀ちゃん、私がこの間買っておいたプリンがない。クリームのやつ」
「あーなんかピンクのパンダが食べてたぜ」
「まじでか。パンダってプリン食べるんだね」
「らしいな」
「だから可愛いのか…」
「そうそう」
「って言うかハゲェ!!」
「いで!」

 想像したらちょっと、いや、けっこう可愛くて悔しかったけど一応つっこみにジャンプで銀ちゃんの頭を叩いた。しかしなかなか鈍い音がしてしまい、罪悪感を感じる。

「あ、ごめ、痛かった?」
「痛ぇよお前…!しかも今月号まだちゃんと読んでねぇんだぞコノヤロー!」
「だって銀ちゃんが変な嘘つくから!」
「嘘じゃねぇよ、いたんだってピンクの女豹が!」
「エロくなってますけど!?」

 こんな感じだ。
 楽しみにとっておいたプリンを取られたのはムカついたけどこんな風にちょっと可愛い嘘をつかれると少しだけ許してしまう。ピンクのパンダなんて発想をする銀ちゃんがとても可愛いと思ってしまうのだ。惚れた弱みというやつである。

 私が用事で数日万事屋にいなかっただけなのに銀ちゃんは大怪我をしていた。

「ピンクのパンダが襲いかかってきてよォ」

 泣きすぎて頭が痛くなった。意味が分からずに涙しか出ず、言いたいことも分からないからただただ泣きながら銀ちゃんを見た。とりあえず言わなきゃいけないことは一つだ。

「嘘だ」
「ちょくちょくお前のプリンとか食べてただろ」
「それ銀ちゃんじゃん」
「ピンクのパンダだっつの。あいつお前のストーカーだぜ」
「銀ちゃん」
「俺が退治してやったんだから有り難く思えよ〜」
「銀ちゃん!」
「…」

 包帯まみれの銀ちゃんは何にもなかった、みたいな顔をして窓の外を見つめた。そのうちまた変なことを言ってはぐらかすのだろうと思ったから先にまくし立てる。

「何で嘘つくの?怒らないし言って、お願い。怖いよ私、これで何回目?ねぇ」
「大丈夫だって」

 軽く笑った銀ちゃんは「いてて」と呟きながら体を起こし、私を抱き締めた。痛いはずなのに力を入れて私を自分の胸に受け入れようとする。

「もうピンクのパンダは出ねぇから」
「…冷蔵庫にとっておいたプリンなくなってた」
「俺が食った」
「……うん」

 ピンクのパンダはもういない。銀ちゃんは嘘をつかなくなった。

100515

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