いくら俺が忍で耳がいいと言えど、これはおかしいと耳を疑った。目の前でおもちゃのようにポロポロ流れる涙をナマエは必死に止めようとしていた。無理に笑おうともしている。そのたびに耳に響くのは、どう考えても涙の落ちる音だった。音、といえるのだろうか。例えるなら心音のように脳に溶け込む、意識しなければ消えてしまいそうな音だった。

「俺、どれくらい寝てた?」
「…三日」
「ごめん、泣き止んで」

 傷がまだ癒えてないようで、上半身を起こすと体に激痛が走った。意識はナマエに向いているからか、さほど気にはならない。ナマエは相変わらずタオルで涙を拭ったり、鼻水を拭いたりするけど泣き止みそうにはなかった。思わず笑うと睨まれる。

「どれくらい、心配したと思って、んの?」
「たくさん?」
「馬鹿」
「ごめんね」

 頭を撫でればさらに泣き出してしまう。ま、分かってたくせにこんな行動をとるのは俺の下らない優越感というかなんというか。泣いてるのに嬉しいなぁ、なんて言ったらまた睨まれるに違いない。生きてて良かった、とつくづく思う。ナマエのおかげ。

「ありがとね」
「もう、カカシの馬鹿」
「うん。生きてて良かったよ」
「死んだら私も死んでやる」
「嬉しいなぁ」
「地獄までついてく」
「え、俺地獄行くの?」

 ナマエが笑う。真っ赤になった鼻や頬が可愛くてまた頭を撫でた。ナマエは少し立ち上がって腕を伸ばし、俺の首にしがみつく。また、涙の落ちる音。ナマエの背中に手を回してポンポン、と叩けば何度も涙の落ちる音がした。俺の脳に響いては、綺麗な余韻を残して消えていく。もう一度、生きてて良かったと感じた。


100211

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テーマ「人外ファンタジー」
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