読書をしている安形はまるで知らない人のような顔をする。いつもへらへらふらふらしてるくせに読書をするときは真剣な顔で、その本の一字一句を覚えるために読んでるんじゃなかろうかと思うくらいだ。実際、安形は頭がいいから「冒頭だけ暗誦して」と言ったら本当にできるかもしれない。そして笑うのだろう、「すげぇだろ?」と得意気に。あ、なんかちょっとムカついてきた。

「安形」
「あー?」
「ムカつく」
「何だよ急に」

 本から目を離した安形は笑い、しおりを本に挟む。読書の終了が告げられて私は笑った。

「ビビった?もしかして」
「いや?寂しがらせたと思ってな」

 にやりと笑う安形はやっぱりムカつく。事実、あまり構ってくれなかったら少し寂しかったのだ。安形がいとも簡単に私の思考を読むから私は安形が苦手だ。でも好き。嫌いと苦手では明らかに違う。私は安形が好きだが苦手なだけであって、嫌っているわけではないのだ。
 安形がテーブルの上に置いた本を取ってしおりが挟まった部分を開けると、やたら難しそうで長い文章が並んでいて眉間にシワが寄った。真面目におもしろくなさそう。

「何っつう顔してんだよ」
「おもしろくなさそう」
「面白ぇよ」

 安形は私の手から本を奪って、また笑いながらテーブルに置く。安形の大きな手が本の上に乗っているのが何故だかすごくかっこよくて、思わず手を重ねた。驚いたような安形の顔はいつもと違って可愛く、「そうだ、キスをしよう」と思ったからキスをした。離れると安形は困ったように笑って言う。

「お前の考えてること、本当に分かんねえわ」
「…苦手?」

 今度は私がにやりと笑えば、安形もにやりと笑った。何か悪くて面白いことを二人でしているような気持ちになって楽しくなった。安形は私の目を真っ直ぐ見て、読書をしているときみたいな表情をして言った。

「好きだけどな」

 苦手だ、と呟くから笑ってしまう。嬉しくてまたキスをすると押し倒されたが、期待通りだった。安形がキスをしながら上から「期待してただろ?」と言うからやっぱり安形は苦手だ、と軽いキスに胸を熱くしながら思った。

100416

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