目を開けるといるはずの千歳がいなかった。しかしよくあることだ。一緒に寝ていたはずなのに散歩に出ていたり、一人でテレビを見ていたり、何かを作って食べていたりする。逆に私が起きたときに寝ている方が少ない。私は千歳の寝顔が好きなんだけど、なかなか見れなくて残念である。
 千歳はすぐに現れた。扉を開けた千歳は両手にカップ、口にスプーンをくわえている。ココアの匂いがして、私は上体を起こした。千歳が私を見て笑う。カップとスプーンをテーブルに置いて、私に聞いた。

「飲むっちゃろ?」
「飲む」
「寒くなか?」

 裸の私に千歳はそこらへんに落ちてる自分の服を渡してくれた。下着は着ずに、シャツとジャージだけを着ていると傍に千歳がやって来てベッドに乗る。

「何?」
「ん」
「わっ!」

 突然千歳は私の胸に飛び込むように私を抱き締めた。千歳の顔が胸に当たってくすぐったい。びっくりした私は千歳のくるくるした髪の毛に手を突っ込んで頭を押すようにした。でもビクともしない。

「急に何ばするとね!」

 そう叫ぶと、千歳は何でもなかったように心臓の音が聞きたくなった、みたいなことを言った。
 意味が分からん。

「千歳、こそばしか」
「こんなときナマエの胸がなくて良かったって思うったい」
「最低や」
「ん」

 千歳が私の胸に頬ずりするようにするもんだから、思わず「うひゃあっ」と声が出てしまった。恥ずかしくて口を塞ぐと、千歳が上目遣いで見つめて笑い、更に恥ずかしくなる。

「むぞらしか」
「ち、千歳、ココア冷めるけん」
「また作ればよか」

 千歳がやっぱりくすぐるように抱き締めてくるからくすぐったくて身をよじるけれど千歳の力が強くて少しも動けない。きっと今の私の心臓はすごい音を奏でているだろう、と考えると恥ずかしくて死にそうだ。千歳の吐息がかかって熱い。そういう行為が意図じゃないのに、似たような熱が身体中を襲ってどうすればいいか分からなかった。
 もう一度千歳を呼ぶと、千歳は黙れ、というように私にキスをした。千歳の手がまだ私の心音を欲しているように胸に当たってどこか苦しい。

「ナマエの心臓はむぞらしかね」

 千歳の言葉に、何故か心臓がとても痛くなった。千歳が笑って、もう一度私の胸に耳を押し当てる。しょうがないから千歳を抱き締めると、千歳は赤ん坊のように眠りに落ちた。


100316

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -