布団に入って、明日千歳に告白しようと決心した。 もう決めた、絶対決めた、何があろうと絶対絶対告白する。隕石が降るって校内放送があったら、その瞬間に叫んでやる「千歳好きや!」って。千歳に丁度彼女ができても叫んでやる「私の方が千歳のこと好いとうばい!」って。あ、千歳が学校に来なかったらどうしよう。今日は来たから明日は来ないかもしれない。そうだ、来なかったら家まで行こう、そうしよう。
 一通り考え終わって布団を頭から被ったけれど、暑苦しくなってすぐに足で蹴った。告白するのに汗臭いのはごめんだ。

 朝はいつもより30分早く起きて、髪の毛を念入りに整えて、10分間歯磨きをした。ほ、ほらもし成功したらキスとかあり得るかもしれんやん!
 いつも通りに家を出て、いつもの道で友達を待っていたらメールが来た。「先行っとって!」と書かれている。これはいつもとちょっと違うな。
 いつもは友達と二人で歩く道を一人で歩き、今日の告白のシミュレーションをする。千歳はお喋りじゃないしちょっと天然が入ってるから、きっと私が言えずに黙ってしまっても何も言わずに待ってくれるだろう。何て答えてくれるかな?「俺もばい」とか?千歳の顔と声を想像すると思わずにやけそうになった。でも「友達じゃ悪か?」とかかもしれない。あ、これ言いそうやな。考えて気が滅入る。いやいやダメダメ!ダメだと思うけんダメになるったい!

「ナマエ」
「!」

 嘘やろ、千歳や!
 振り向いて見上げる。朝から飄々と風のような雰囲気を醸し出して、私に笑いかけた。「おっはよ」といつも通りに言ってみた。

「おはよう。今日は一人なん?」
「うん。千歳、二日連続来るの久しぶりやね」
「あー」

 千歳はわざとらしく目をそらした。なぜかその仕草に淡い期待が私を包む。
 まさか、千歳も告白?…いやいや。私、今日どがんしたんやろか。ちょっとおかしか、頭が沸いとる。でもいつもとちょっと違うことがあると、それが日常全てを変えてしまう鍵のように思えてしまう。
 千歳は申し訳なさそうな顔で笑った。

「明日、転校するけんね」
「…は?」
「大阪」
「は?何なん?どがんしたと?橘の球が脳細胞破壊したと?」
「関係なかよ」

 千歳は可笑しそうに笑い、頬を掻いた。照れたような仕草が意味分からない。
 は?なん?何なん?転校って何なん?大阪って何なん?明日?は?何なん?今日私が告白しようとしてたのに何でこげんことになるとね、いつもと違うって違いすぎばい、これは。

「…ほんとなん?」
「俺が嘘ついたことあると?」
「…なか」

 ない。千歳は嘘をつかない。何より、この表情で嘘をついてないことが分かる。謝ってるような表情だった。
 どうすればいいのか、何を言えばいいのか分からなくなった。千歳に絶対告白すると決心したのに、言うことは決まっているのに。
 千歳は私の表情を見て困ってるみたいだった。自分が今どんな表情をしているか分からないけれど、千歳がこんな表情をするくらいだからよっぽど酷い顔なんだろう。何も言わない私に千歳はまた苦笑した。

「あー…」
「千歳、私、今どんな顔してる?」
「…俺がナマエの体重を見たときに似とる」

 そんなこともあった。健康診断の紙が返ってきたとき、千歳は背が高いもんだから私の紙を見えてしまって「見かけによらずけっこう重かね」と言ったのだ。あの時は怒った。とても。千歳を今みたいに睨み、「死ね!」と脛を蹴った覚えがある。千歳の脛は固かった。
 でも今はそんな行動もできない。あの時もそうだったが、今も泣きそうなのだ。

「…すまんばいね、ナマエ」
「何で謝るん?」
「困らせること、言うけん」
「千歳」
「好きやった」

 千歳が笑う。私は身体中が熱くなって、言葉が出ない。口をパクパクさせてしまい、千歳が面白か、と笑った。喉が熱い。

「面白かって!」

 あ、声出た。

「か、かっ過去形なん?」
「過去形じゃなかよ」
「私な、今日、じゃなくて昨日やけど、千歳に告白するって決心してな、千歳に会ったら絶対何があっても言おうって決めとって」
「はははっ」

 私は昨日布団に入って決めたのだ、例え隕石が降っても千歳に彼女ができても告白すると。

「千歳、好き」

 俺もばい、と千歳が言った。シミュレーション通りだった。


100314

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