「白石、千歳がおらん」
「いつものことやん」
「連絡もつかん」
「いつものことやん」
「白石かっこええなぁ」
「いつものことやん」
「…」

 否定はしないが肯定もツッコミもしたくない。冷たい目を白石に向けると「あんまり見つめられると照れるわ」と返されたからため息をついた。はぁ、千歳に会いたい。
 空は雲が絵のように散らばった綺麗な晴れで、過ごしやすい。風もちょっと冷たいくらいで日差しが強いから気持ちが良かった。部活もしたいけど、今日ほど昼寝日和はないだろうなと授業を受けながら思ったくらいのいい天気だ。

「今日はええ天気やし来ると思てたんやけどなぁ」
「後から来るかもしれんやん」
「せやったらええけど」
「よっしゃ、ほなそろそろ休憩にするか」
「ん」
「ナマエ、今のうちに金ちゃんの怪我手当てしたって」
「ほな部室行ってくる」
「おん」

 私が部室に救急箱を取りに行く間、白石は金ちゃんを捕まえておくに違いない。案の定白石は、怪我をしてもはしゃぎまくる金ちゃんの方に向かっていた。毒手で脅されるんやろうな、と苦笑しながら部室の扉を開ける。

「うお」

 千歳がいた。
 千歳は着替えの途中で、私に気づいて声を出しながらもシャツを頭から被った。最初から学校に来る気がなかったらしく、脱ぎ捨てられていたのは私服だった。
 千歳は着替えを終えて笑う。

「久しぶり」
「久しぶりて。どこ行ってたん?」
「いろいろたい」
「楽しかった?」
「…怒っとると?」

 そう言われて、少しイラッとした。言われてみれば怒ってるかもしれないが、そんな「何で?」みたいな顔で聞かれるのが更に腹立つ。
 遠くで何を言ってるか分からないけど、金ちゃんの叫び声が聞こえた。笑いそうになったけど笑っていいものか悪いものか困った。きっと千歳は、ねちねち言う女は好きじゃないだろう。私だってそんな女にはなりたくない。

「怒ってへん、けど」
「けど?」
「…ちょっと怒ってる」
「どっちなん」

 可笑しそうに笑う千歳が愛しくて、ああもういいや、怒ってるのがアホらし、と思った。思えば今日はいい天気だ。昼寝日和でもテニス日和でもあるけど千歳が放浪したくなるのも無理はない。今日だからこそ千歳は放浪したんだろうし。

「千歳が楽しかったんならええわ」
「…怒られるんかと思った」
「何でやねん。今日は会えたし、楽しかったんやろ?」
「うん」
「ならええやん。いま休憩中やから早よ行こ?みんな待ってるで」

 千歳はなぜか動こうとはなかった。不思議に思いつつ救急箱を取り、抱えたら千歳が私の名前を呼ぶ。久しぶりに呼ばれた気がして胸が跳ね上がった。他の人に呼ばれてもここまでドキドキしないのに、本当に不思議だ。千歳の口から私の名前が出るたびに私は死んでもいいと思ってしまう。それくらい好きだ。

「ナマエ」
「なん?」
「キスしてもよか?」
「なななな何でこのタイミングやねん!」
「むぞらしかって思ったけん」
「意味分からん!」
「今度ナマエも一緒に行く?」
「え?」
「学校サボって、いろんなとこ」
「行きたい!」
「約束たい」
「うん!うん!」
「キス」

 返事をする前にキスをされた。背の高い千歳が身を屈めてまで私にキスをしたいと思ってくれるなんて、毎回のことだが嬉しくてパンクしそうになる。脳の血管全部が暴れている。
 唇が触れてるだけなのに熱くて苦しくていっぱいいっぱいになって、幸せだと噛み締めていたら後ろから複数人の声がして千歳が離れた。

「やったで!」
「アホ金ちゃん声がでかい!」
「謙也くんもでかい」
「あら、気づかれた?」
「ナマエの顔真っ赤や」

 金ちゃん、謙也、光、小春ちゃん、ユウジの声だった。私は恥ずかしくて恥ずかしくて千歳に隠れるようにしたら、千歳はなぜか嬉しそうに笑っていた。何笑てるねん、と脇腹に小さくパンチしたら「痛」とまた笑う。そして私の手を握り、部室の扉を開いて言った。

「金ちゃんにはまだ早か」
「そーいう問題ちゃうわ!」

 同時に白石がやってきて、休憩が終わったことを告げる。私が何で金ちゃんを捕まえておかんかったんと不満を垂れると、何で遅かったんとニヤニヤ笑いながら返されてまた恥ずかしくなった。
 まだ千歳と手を繋いだままで、離そうとしたら千歳がこっちを見る。

「なん?」
「ありがとう」

 千歳は私の手を離し、じゃれてくる金ちゃんの相手をしながらコートに向かっていった。
 何のことやろか、と考えながらも手を口に持っていく。千歳の意図は分からなかったけれどニヤニヤが止まらなくて困った。


100313

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