彼女はここにいた証拠を遺そうといつも一生懸命だった。忍という職業柄、俺も彼女もいつこの世を去るか分からない。だから、彼女はいつも何かにつけては一生懸命だった。そんな彼女は俺にとってめんどくさいものではあったが自分にはないものを持つ彼女が愛しいと思う自分の方がめんどくさいとよく思う。

「だいぶ溜まったよ、アルバム」

 頼んでもないのにアルバムを広げ、新しい写真を整理するのを見せる彼女はとても嬉しげだった。いのやサクラやナルト、キバ、チョウジ、アスマ、とにかくいろんな奴らといろんなシチュエーションで撮った写真はまさに色とりどりだ。もちろん俺もいるが、我ながらめんどくさそうな顔をしていた。彼女は満面の笑みだからまぁいいかとは思う。自分に甘いだろうか。いや、彼女に甘いんだろう、多分。
 ナルトたちの馬鹿みたいな写真にクスクス笑いながらアルバムの中はどんどん彩られていく。読んでいた雑誌よりそれを見る方がなぜか好きだ。俺にはまったく関係のないように思える彼女の軌跡(彼女からすれば俺は大いに関係あるんだろうが)に、俺は目を奪われる。

「今度はみんなで焼き肉のときに、またたくさん撮るんだ」
「来週だっけか」
「え、今週だよ」
「…」
「シカマル、任務のあとは曜日感覚とかないよね」

 頭いいのに、と付け加えて彼女はまたクスクス笑った。そして一枚の写真を俺に見せる。

「これは貼れないからあげる」

 俺の寝顔だ、上半身しか写ってないが裸のところを見ると情事のあとだろう。みんなに見てもらうアルバムだから貼れない、と彼女は主張した。

「いるか、んなモン。っつーか何勝手に撮ってんだよ」
「だって、撮らなきゃって思って。…撮らなきゃって思ったなら持っておくべきか。やっぱりダメ、私の」
「いらねぇって」

 っつうか恥ずかしいから捨てろ、と言いかけてやめた。これは彼女の軌跡だ、俺が邪魔をする権利はない。

「シカマル専用のアルバムでも作ろうかな」
「…」
「ね、いい?」
「ダメだっつっても作るくせに」
「バレたか。実はけっこうシカマルだけの写真が溜まってて」
「いつの間に…」
「これでも忍ですから」

 得意気に笑う彼女に呆れて笑ってしまったら、彼女は俺を見つめはじめた。くるっとした瞳はいつも少し潤んでいて、いつも少し官能的だと思う。

「んだよ」
「シカマルの笑顔って貴重だから」
「はっ、なかなか写真にはおさめれねぇだろ」
「そうなんだよね。でもいい」
「あ?」
「うん、いいんだよ」

 こいつのことだから執着するかと思ったがそうでもなかった。そういえば写真を撮るときに、いのとかは「笑いなさいよシカマル!」と怒るが、彼女はそんなこと一言も言ったことはない。自然体が一番とかそういう信念だろうか。いや、少なくともこいつのアルバムの中にあるサクラたちとのふざけた「ファッションショー」とやらは作り笑顔に違いない。そりゃもちろん自然な笑顔も山ほどあるアルバムだが。

「シカマルは特別」

 勝手に思考を巡らせていると、彼女がそう呟いた。何が特別かはよく分からなかったが、思考が完璧に止まってしまって焦った。俺は写真に執着はしねぇが、彼女の笑顔をわざわざ写真におさめる気なんかまったくないから何となく分かる気がして笑えた。簡潔に言うならば、そうだ、お前だけは特別。


100211

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