世の中を騒がせた新しいインフルエンザの話も小さくなってきたころ、仁王がマスクをして登校してきた。だいたい顔に変化がないから、朝「おはよー」と言ったときは「おはようさん」と怒って返されたかと思った。なんか気を遣ってしまう。

「風邪引いたの?」
「うんにゃ」
「じゃあ何で」
「寒かったんじゃ」
「…怒ってる?」
「別に?」
「ほんとに?」
「何で俺が怒るんじゃ」
「いや、マスクしてるからよく分かんない」
「怒っとらんよ」
「いや…怒ってるでしょ」
「そのしつこさに怒りそうじゃ」
「ごめんごめん」
「おっはー」

 振り向くと、ブン太がいつものガムを膨らましてやってきた。あ、そういえば昨日メール返してない。

「メールごめん、寝た」
「別れようかと思った」
「うっざ」
「ちょ、ひどくね?」
「別れても俺と付き合えば問題なしじゃろ」
「何が?何の解決にもなんねーから」
「いやん、雅治ったら」
「お前も何乗ってんだよ」

 ブン太がいい感じにつっこむから面白くなって仁王に寄り添った。すると仁王もノリノリで腰に手を回す。ブン太は何回も「うぜー」と文句を垂らす。
 その間にも仁王と名前を呼びあったり、こっちも腰に手を回したり、仁王が私の髪の毛を触ったり、仁王のファンが言われたら卒倒するような言葉をかけられたり、イチャイチャしてみた。ちょ、これやばい、仁王ほんとかっこいい。マスクから覗く切れ長で魅力的な目がずっと私を捕らえて離さない、という自覚に痺れてしまいそうだ。こいつ絶対自分がイケメンって思ってるよ。
 そんな私に気づいたのか、だんだんブン太のブーイングが更に大きくなる。なんか気分を害した。

「ブン太うるさい、邪魔すんな」
「んだよそれ、まじ別れっぞ」
「ブンちゃんを黙らせる方法知っとる?」
「キス?」
「当たり」

 すぐさま口を手で覆って、仁王のキスを拒んだブン太に笑っていると、仁王がマスクの向こうでニヤリと笑った気がした。同時に、腕を掴まれて仁王の顔が近づいてくる。
 え、嘘、私と?
 逃げる暇もなくマスクの乾いた感じと、マスク越しに柔らかい唇が私の唇を襲う。一瞬仁王のいい匂いもした。仁王は数秒で離れ、ブン太は目を見開いてこっちを見ている。

「な、黙ったじゃろ」
「…仁王唇柔らかいね」
「ブンちゃん固いんか」
「いや、仁王が異常だと思う」
「ってゆーかお前らまじ何なんだよ、ありえねぇ、別れる」
「別れる別れるって女みたいなこと言わないでくれる。別れたら仁王と付き合うし。ってゆーかマスク越しだし」
「じゃあもし俺が、マスクした女子にキスされたらどうすんだよ」
「別に…」
「別にって!」
「あーもーうるさいのうブンちゃん」
「誰のせいだ!」
「んじゃこれならいいんか?」

 睨むブン太の腕をちょっと荒々しく掴んだ仁王は、さっき私にしたみたいにブン太に唇を押し付けた。思わず「うわ」という声が出てしまう。離れると、ブン太は固まって仁王を見つめて動かない。

「ナマエと間接チューじゃ」
「うわ、うわ、どうしよう、男同士なのに今のキスちょっとドキドキしちゃった」
「俺もドキドキしてるわボケ…!」
「え、恋?」
「俺はそんな趣味なかよ」
「ちげーよ!気持ち悪くてドキドキしてんだよまじ何なんだよお前ら!」


100302
収拾がつかなくなった

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