きっかけなんてものはいつも単純だと思う。どこにあるか分からないくせに道端の石みたいにゴロゴロ落ちている。言うならば道端の石がきっかけになったりもするかもしれない。私と白石の場合、きっかけは消しゴムだった。
 ある休み時間、日誌を書いていた白石は消しゴムを落とした。不自然な形をした消しゴムは不自然な軌跡を描いて後ろの私の席まで転がり、それを拾ったのがきっかけだった。それまではプリントを手渡しされるくらいの関係でしかなかったのである。本当にきっかけはどこにあるか分からない。

「あ」
「よっ、と」
「ありがとさん、ミョウジ」
「ええよ。…変な形の消しゴムやな」

 私は動物の形をした消しゴムを白石の綺麗な手に乗せながら呟いた。白石は整った顔を動かし、笑う。澄んだ声だった。

「謙也のやねん」
「あ、そうなん。白石のイメージとちゃうなぁ思ったわ」
「俺のイメージ?」
「なんか、MONOしか使ってなさそうな」
「お、当たりや」

 白石は器用なもんだった。会話は上手いし、空気も読む。友達づきあいがたまにめんどくさくなる私にとってどういうわけか白石は話しやすかった。後腐れというか、引っ掛かるものが何もなかったからだろうか。思い返しても白石との会話なんか言うほどのものではないと思う。そんな、下らないというかどうでもいい話ばかりだった。楽しかったけれど。
 席替えは案外早くやってきた。話すようになるきっかけも単純だったが、話さなくなるきっかけも単純だった。話すような距離でなくなった私たちはその後、特に何もなければ話すことはなくなった。別にそれが悲しいとかどうこうじゃなくて、友達と話すとやっぱり白石は楽やった、とどこかで思うようになった。たまに、あの白石の声が聞きたくなる。

「ミョウジ!」
「おー、白石」

 ある日の帰り、部活途中であろう白石に話しかけられた。相変わらず爽やかだ。

「久しぶりやな、話すの」
「せやなぁ、席替えしたし。で、何か用なん?」
「あー…今帰り?」
「おん。ドラマの再放送見たいねん、今日最終回やし」
「ほな手短に言うわ」

 白石は爽やかに笑った。前にも思ったが、本当に顔が整っている。声が澄んでいる。イケメンやわ。

「俺と、付き合ってください」

 恋するきっかけって、ほんまどこにあるか分からんねんな。消しゴムから始まり、どこでどう白石に恋したか全くわからへん。
 というわけで白石の彼女になった私の話でした。


100220

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