※一応斑目さんの彼女



 虚に胸を貫かれた。痛みは不思議となかった。いや、あったかもしれない。今となってはなぜか分からない。とにかく、貫かれて、穴があいたことは理解できた。呼吸ができなくなって、生暖かいものが全身に広がっていくような感覚がして(血をたくさん吐いたからそう感じたのかもしれない)、一角の声が一際大きく聞こえた。私の名前を呼んでいる。

 暗闇に私は寝ていた。立ち上がっても、真っ暗で感覚がおかしくてよろめく。意識ははっきりしていた、それに五体満足だ。虚も仲間もいない。これが死後の世界というもののだろうか。寂しいところだなぁ。
 「一角さーん?」とおどけて呼んでみた。響きもしない。音は暗闇に吸い込まれるように消えた。なんだ、ここは。
 なぜか恐怖心も焦りもなかった。ただ、早く一角が来ないかなぁとだけ思う。もうすぐ来るはずだ、と思った。

「ナマエ!」

 ほら、やっぱり。
 私は歩いた。どこから声がするのか分からなかったけど、歩けば歩くほど一角の声が近くなる。もう少し、もう少し。
 すると、何かに足を掴まれて私は無様に転ける。それはもう無様に。みんながいたら笑われるくらい無様に。鼻を打って、涙が出ないように目を強く瞑った。足元でやちるちゃんの声がする。「ナマエちゃん、そっちじゃないよー!こっち!」いや、でもやちるちゃんの方向感覚、あてにならないじゃん、ってかもうちょっと優しく引き留めてよ、と目を開けたら一角の顔が近くにあった。「ナマエ!」と叫ばれて、びっくりして顔が歪んで弓親が「不細工だよ」と優しく言ったのが聞こえた。あり?真っ暗じゃない、どこだ、ここ。一角は真っ白な着物を着ていた。天国?死んじゃった?これ天使?

「…マルハゲ天使?」
「天国へご招待してやろうかコルァ」
「嘘うそごめん!愛しの一角さん!おはよう!」
「元気みたいだね」

 弓親も白い着物だ。あ、あれか、四番隊に入院した人が着るやつか。紛らわしいなぁ、もう。

「あ、そういえば、痛くない」
「現世の井上さんに来てもらったんですよ」
「卯ノ花隊長」
「どこか悪いところはありますか?」
「顔と頭だろ」
「自分をそう卑下しないでよ、一角」
「てめェェェ!」
「あら、もう喧嘩ですか?お二人とも怪我人なんですからほどほどになさってくださいね」

 そう言って卯ノ花隊長は静かに歩いて行った。入れ替わるように、今度は更木隊長とやちるちゃんが入ってくる。

「ナマエちゃん起きたー!?」
「なんだ、危篤状態だって聞いて来てやったのに起きてんじゃねぇか」
「え?」
「傷は治ったけど、さっきまで心拍数とか安定してなくてうなされてたんだよ。だから一角が不細工に叫んでたってわけ」
「てめえ…」
「急に安定して起きたけど。君もしぶといねぇ」
「更木隊だもん」
「俺のせいかよ」
「いやいや隊長のおかげですって。あ、あとやちるちゃんのおかげだ」
「副隊長の?何で?」
「隊長!今度からやちるちゃんの方向感覚馬鹿にしちゃいけませんよ!」
「あ、ダメだこいつ、頭打ってら」
「卯ノ花さーん」
「打ってねーよ!」


100219

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