ああ、まるで地獄だ。
 毎回毎回嫌になる、胃が痛くなる、ここは?どこ?と脳みそが一回転して戻ってきた瞬間、私はいつも目眩を覚える。考えている暇はなかった。隙を見せれば殺される、私は目の前を行く彼の後ろを守ればいいだけだった。
 武器は銃、彼と違って人間を殺す瞬間は味わわないはずなのに引き金を引くことがひどく躊躇われた。でも私は引き金を引く。生きたかった。
 先に仲間たちが進んだルートから人間の叫び声が聞こえた。地獄で鬼にいたぶられるより悲痛な声じゃないかと思うくらい酷い。あれは、私の仲間たちが人間から搾り取っている叫びだ。
 本気で恐れると言葉にならない声しか出ないらしい。あちこちで表現し難い声が響いている。目の前の彼が今まさに咬み殺そうとしている男もそうだった。大の大人であるからこそ痛ましい。呻き声と共に男は動かなくなる。また遠くで叫び声。ああ、ああ、耳がおかしくなりそうだ。
 唇を噛みしめ、銃を握りしめ、彼の背中を追う。すると急に彼は立ち止まった。トンファーから血が滴っているが、床に落ちた瞬間の音も叫び声がかき消した。

「ペースが遅いよ、どうしたの」
「…ごめん、…耳が」

 彼は私を向いてトンファーを無造作に落とす。私の右耳を彼の左手が包み、左耳に顔を近づけた。低い声が脳髄にビリビリと響く。胃が熱くなった。

「可哀想に、耳鳴りがするんだね」

 仲間が先に行ったルートから耳鳴りが走ってやってきた。銃を持っている。それを構える前に私が引き金を引いた。耳鳴りが止む。

 耳鳴りは止んだかい?と一時間後、みんなが合流したときに彼は私に聞いた。止んだ、と答えると涙が溢れて彼が微笑みながらそれを拭っていく。

「可哀想に」

 可哀想なのは、恭弥だ。これは誰のための涙だろう。



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