世の中には訳が分からん奴がたくさんいるのである。携帯を何本を持っていて朝に三本選び日曜日の学校にパラシュートで降りる奴もいれば、目がいいくせに伊達眼鏡をかける奴がいたり。まぁ俺が通っている学校がアホみたいに金持ち学校だからかもしれねぇが、俺の部活のやつらはなかなかの変人ばかりだと思う。比較的な庶民からすれば、あいつらのやることはたまに意味が分からん。たまに…だろうか。まぁ、あれだ、最近気づいたが、金持ちは派手なことが好きらしい。庶民仲間である電気屋の息子にそう告げると「今頃気づいたのかよ」と言われた。俺はそういう違いに気づくのが苦手だ。母親が髪を切っても気づかないくらいだ。…話がそれた。
 そう、とにかく、世の中にはアホみたいな変人がやまほどいるのである。目の前のこいつみたいに。

「だからさー!一回やってみたかったからさー!」
「だからって部室でするなっつってんだよ!」
「あーうるさいアホベだな!」
「んだとコラお前の株全部売り飛ばすぞ!」
「そしたら跡部んちの株買収してやるもんね!」
「やれるもんならやってみやがれ成金が!」
「成金じゃねーよ!!」
「いや、待て、お前ら、喧嘩の規模がよく分からん」

 俺がマネージャーと部長の間に入って口論を遮ると、二人は今にもお互いを掴みかかろうとしていてギリギリだと冷や汗をかいた。
 この喧嘩の発端は、俺たちが部室に入ってきたところから始まる。ほんの10分前だ。委員会で遅れた俺や跡部の数人が部室の最初の扉を開けると、ありえない匂いが充満していて俺たちは足を止めた。ありえない匂いとは、チョコレートの匂いだ。
 よく部室でチョコレートやらお菓子やら食べる奴はいるが、ここまで匂いが充満するということはかなりの量のチョコレートがあるということだろう。ありえない。本当にすごい匂いだ。

「…これ以上進みたくねぇ」

 あまりの匂いに手で口を抑える。進むことを躊躇うほどのチョコレート臭、理解できるだろうか。食べても見てもいないがもうしばらくはチョコレートなんかいらないと思った。バレンタイン以来だ。
 跡部がゆっくりドアノブを握り、扉を開ける。マネージャーが「あっ、来た」と呟いた。俺の手のひらは思わず口元から離れる。右手が宙に浮き、口があんぐり開いた。岳人が信じられない、とでも言うように呟く。

「チョコレート・キャッスル…」

 すげくね?と彼女が笑った。
 チョコレートの城がテーブルいっぱいに広がっていた。しかも、既製の物ではない。床には湯煎用にコンロと鍋が置いてあり、隣には業務用のシールが貼られた袋に半分ほどチョコレートが入っている。
つまり、彼女はこの業務用のチョコレートをいい具合に溶かしては砂で城を作るようにチョコレートで城を作っていたわけだ。
 そうして、金持ち二人の口論が始まった。

「どうするんだよこれ…」
「亮、食べてみろよ美味いから!」
「食うなジロー!」
「えー」
「食べていいよ?」
「そうじゃねぇだろ!」
「っつか食うしかなくね?俺も食う」
「忍足は気持ち悪うなったとか言って逃げてね、私とジローしか人手がなかったから中途半端なんだよ」
「んなこと誰も聞いてねぇし」
「いいから宍戸も食べて食べて!ベルギーから取り寄せた高級チョコレートだよ!一回でいいからこうやって遊んでみたかったんだよね!」
「家でやれ馬鹿」
「はいはいアホベアホベ」
「このクソアマ…」
「落ち着け跡部!こいつに何言ったって無駄だ!」
「しょうがないなぁ、跡部も食べていーよ」
「…」

 跡部が盛大に舌打ちをし、空気が冷ややかとなる。本気の舌打ちだった。彼女は本当に跡部を怒らせることに関しては天才と言えるだろう。

「ってか本当は跡部の誕生日プレゼント決めててさ」
「あ?」
「ヨーロッパ行って、いろんなとこ回って、なかなかいいのなくて、ベルギー行ったら超美味しいチョコレートあって、これは買わないとって買って、帰って、跡部のプレゼントすっかり忘れてて、だから、これプレゼントね」
「いらねぇよ、こんなの」
「はー!?何のためにヨーロッパまで行ったと思ってんの!?」
「何のためにって目的達してねぇじゃねぇか馬鹿」
「うっさいバカ、いいから食べろ、誕生日おめでとう」
「何日遅れだ」

 いちいちいいながら跡部は彼女の隣にあぐらをかき、近くのスプーンで城の一部を削り取って口に含んだ。悪くはねぇな、と呟けば彼女は得意気な顔で「でしょ!」と笑う。跡部は昔馴染みであるこいつに甘い。ちなみに何だかんだ俺たちも幼稚舎からの付き合いだからあいつに甘い。甘いというか、もう嫌えない域にいるだけだ。腐れ縁だということが感覚で分かる。

「亮!ガム!つけて食べよう!」
「誰が食うんだよ」
「じゃんけん!」
「俺は絶対嫌だからな!」
「がっくんじゃんけん弱いもんな〜」
「先にパー出すからだろ」
「頭もパーってやつだね!」
「お前まじムカつくんだけど!」
「まぁまぁ食えって」
「そういうとこがムカつくっつってんだよ!」
「喧嘩すんなって…」

 あれ?今日の俺、仲裁ばっかりじゃね?二人の頭を掴んで離す。今日、というか考えれば昔からそうだったような気がしてきた。いや、気がしてきたじゃない、確実にそうだ。

「宍戸汗くさい」
「うるせぇよ!」

 多分。


091226

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