「うさぎかお前は」

 コンビニの袋をぶら下げて帰ってきた銀ちゃんは私を見るなりそう言った。そんな銀ちゃんを見上げながら私はもくもくと目の前にあるサラダを食べ続ける。お皿いっぱいの野菜を頬張るとシャキシャキ気持ちのいい音がする。みずみずしい感覚が口に広がり、うさぎもこんな気持ちかなと考えた。毎日シャキシャキ、なかなか素敵じゃないか。爽やかな感じで。私は絶対飽きるけど。まぁ今も正直けっこう飽き飽きしてるけど。

「何やってんだ」
「サラダ食べてる」
「いやそういう意味じゃなくて」
「太ったんだよね」
「今さらだろ」
「フォークも凶器になりうるんだよ、銀ちゃん」
「ごめんなさい」

 謝った銀ちゃんに目もくれず、私はまた野菜を頬張る。何だか食べても食べても満たされない。野菜は嫌いじゃないけど、飽きるし、なんだかとても薄い氷をひたすら噛んでるような気がする。ドレッシングもかけてないしなぁ。きっと野菜が大好きな人はこの自然な味がたまらない、と言うんだろうけど生憎私の肥えた舌では何も満たされなかった。傍にある水を飲んでも、リセットできずに割り切れない。

「そんな偏食だと逆に太るんじゃね?」
「野菜で太るわけないじゃん」
「っつーかお前の場合、我慢できなくなってドカ食いするのがオチだな」
「そう、私も思ってた。だから銀ちゃんも手伝ってね」
「は?」
「甘いもの禁止」
「いやいやいや、何で俺まで」
「だいたい銀ちゃんは健康に気をつかわないと。糖尿寸前じゃん」
「いいんだよ俺は。太く短く生きると決めたから」
「例え銀ちゃんみたいなのでも死んだら悲しむ人いるんだよ?」
「銀ちゃんみたいなのでもって何?私が悲しむみたいなこと言えないのお前」
「じゃあ私が悲しむ」
「後で加えられても」
「後乗せサクサクじゃん」
「何の話!?」

 つっこんだ後、銀ちゃんは私の向かい側のソファーに座ってコンビニの袋をテーブルの上に置いた。プリンやケーキのパッケージが見える。考えるとこういうパッケージってずいぶん派手だ。そそられる。いやいやダメだダメだ、私には野菜しかないんだ、我慢だ私。

「せっかく勝ってきたのに」
「おい、漢字が違うだろ、パチンコ行ってただろお前」
「…出稼ぎだ」
「どんな出稼ぎ!?」
「うっせーな、お前はうさぎやってろ」
「うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ」
「オメーなら大丈夫だろ」
「最低最低最低」
「可愛くねーうさぎだなオイ」

 銀ちゃんは笑いながら飄々と「クリームたっぷり」とでかでか印刷されたプリンを開けた。彼女が目の前で必死にダイエットしてるというのになんて奴だ。銀ちゃんを睨み付けてると、コンビニで貰えるスプーンのビニールを歯で開けながら銀ちゃんがこっちを見た。ニヤリとムカつく顔で笑って小さなスプーンに大きなプリンの塊を乗せる。ぷるぷると震えるプリンは何ていうかもう可愛い。私はそれをジッと見つめた。

「食べてぇんだろ?」
「…我慢するし」
「いいのか?食べちゃうぞ?ほれほれ」
「うざ!」
「まぁいいから一口食べてみって」
「いらないってば!」
「ムスッとしながら野菜食ううさぎより甘いもん食べて笑ったうさぎのが可愛いって」
「…最低」
「いや〜お前は幸せだな、俺みたいなのが飼い主で、ほんと」
「飼い主に似ちゃったな〜。あーあ、私もうダメだ、そうだ、死のう」
「うさぎは寂しくない限り死にません〜」

 そういいながら銀ちゃんがさらにスプーンを近づけたから思い切り食べてやった。美味いか?と聞く銀ちゃんと口に広がる甘味に自然と口の端が上がる。私は寂しくて死ぬことなんかないんだろうなぁ、と甘い塊がお腹の中に落ちた。この塊は銀ちゃんの愛だ、と勝手に解釈して二口目も頂いた。餌付けだな、と銀ちゃん呟いて笑った。


100122
ちなみに私は野菜が嫌いです(…)

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