銀ちゃんは、たまに、うなされる。低い呻き声を出して、汗かいて、苦しそうに苦しそうにうなされる。

「銀ちゃん、銀ちゃん」

 銀ちゃんがうなされる度に私は銀ちゃんを揺すって起こした。なかなか起きなくていつも急に怖くなって不安になる。しばらくして銀ちゃんは私に気づくと汗まみれな顔で「泣きそうな顔してんぞ」と笑った。私は笑えなくて、思い切り銀ちゃんの頬をたたく。私が泣くのはおかしいから我慢するのに、銀ちゃんは泣かそうとするからムカついた。

 銀ちゃんはいつも狡い。私の中に入ってくるくせに私を極力自分の中には入れようとはしなかった、お前のためとでもいうようなバリアにいつも隔てられてて悲しくて切なくて苦しいくらい愛しくなった。でも私は銀ちゃんのことを何も知らない。何も教えてくれない。うなされた夢の内容も、昔何があったとか、何が怖いとか、そういうのを教えてくれない。銀ちゃんは狡い。狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い。

「おい」

 ある日、銀ちゃんが私を真夜中に起こした。自分の寝間着がしっとり濡れていて、髪の毛の質感も湿って汗をかいているのが分かる。眠くて開けられない瞼をこすると、異常なほどに指先濡れて寝惚けた頭がこれは涙だと判断する前に、銀ちゃんに瞼をこする手を掴まれた。

「うなされてたぞ」

 ぼんやり薄暗い闇の中に銀ちゃんが見える。銀ちゃんに掴まれた腕が痛いことに気づいて、目を凝らす。
 銀ちゃんの表情を見て、汗が引っ込むような寒気が私を襲った。

「銀ちゃん、泣きそうな顔してるよ」

 そう言ったら銀ちゃんはポカンとした。あ、そうか、私もいつもあんな顔してるのか。だから、銀ちゃん我慢させずにいっそ泣かせようとするのかもしれない。でも寝起きに泣きそうな顔を見せられたからびっくりした。

「びっくりした」
「こっちのセリフだっつのバカヤロー」
「ごめんね」
「どんな夢見てたんだ?」
「えー、秘密」
「そうかよ」

 いつも自分が言わないからか、銀ちゃんはあっさり引くおやすみ、と体を布団の中に戻して私に背を向ける。
 何となく、何も言わずに広い背中にくっついた。銀ちゃんは何にも驚かなかったし、言わなかった。ただ心臓の音がゆっくり静かに私に響いて愛しさで胸がはち切れそうになる。
 銀ちゃんがうなされる夢を見てた、と言ったら銀ちゃんは泣くだろうか。
 泣くのを我慢するのは苦しいから泣かせたい気もした。でも銀ちゃんは私に泣き顔を見られたくないかもしれない。こんなに近いのによく分からなくて、やっぱり私は泣きそうになった。


091122

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