怒れば怒るほど自分の頭の中が退行していっているのが分かった。大声出したいし、大声で泣きたいし、「あああああ」って大声で叫びたい。誰かに抱きつきたいし、文句言いたいし、できることなら殴りたい。そんなことを考えるだけで実際にしないのは私が大人だからだ。いや未成年だけど。常識があるって言いたいの、私は常識があるの。だからこんな公園の滑り台の一番上で膝を抱えてるのも探しに来た人が見つけやすいためだからね、いやまじだから、別に暗くて怖かったとかじゃないだからね、まじ。

「おい」
「…土方さん」

 下を見ると、土方さんが立っていた。タバコの光が綺麗に見える。空に広がる星や月よりも全然綺麗だ。

「ったく、ガキだなお前も」
「総悟が悪い」
「お前も悪いだろ。結果的に飛び出て、総悟以上に迷惑だっつーの」
「…ごめんなさい」

 謝ったら、土方さんとの間の空気が気まずくなった。しまった、という空気が流れて、土方さんが「あー…」と言葉を探している。
 あぁ、私は子供なんだなぁと歯痒くなった。そもそも迎えに来てくれることを待っていた時点で子供なんだ。土方さんたちに甘えてる証拠だ。

「総悟も、悪気があったわけじゃねぇよ」
「分かってるけど受け入れられなかったんです」
「…気持ちは分かるがな」

 土方さんはゆっくり煙を吐いた。消えていく煙が切なくてゾッとする。
 土方さんは分かるとは言うけど、私みたいに飛び出したり幼児退行はしないんだろうな。当たり前か。大人だもん。大人?大人って何かな?
 総悟は昔「大人はズルいんでさァ」って言ってた。ズルいのが大人って。なんか、大人になりたい、なんて言えないなぁ。
 総悟の声がまた頭の中で聞こえた。さっきの喧嘩したときの声だ。ひょんなことで「どうせ捨てられた身じゃねぇか」と言われた。あーまたムカついてきた、捨てられた身、確かにそうだ、身寄りのない私はとっつァんに拾われて真選組に入った。でもそれを恥じてはいなかったし、私のマイナス要素になるとも思ったこともない。
 だけど、総悟に言われたのはショックだった。身寄りのいない私にとって、真撰組は家族に近いものだと思っていたからだ。実際、朝起きて「おはよう」「おう、おはよう」とかいう掛け合いや「ご飯だよー!」「今日も土方さんは犬の飯ですかィ」とかいう掛け合いとか正直めちゃくちゃ好きだった。大好きだった。だってみんな大好きなんだもん。

「総悟ムカつくううう何であの流れであのセリフ!?」
「総悟もお前があんなに傷つくとは思わなかったんだろ」
「そりゃ傷つくよ」
「じゃあ、そう言やぁいいだろ」
「そんなに弱い女じゃないもん」
「めんどくせぇ女」

 ハッ、と土方さんは笑った。煙を同時に吐き出したけど今度は切なくなかった。

「元はと言えばお前が総悟部屋の襖に穴開けたからだろ」
「いや…気功の練習を…」
「だから何で総悟の部屋ので、だよ。それも全部」
「お…お茶目?」
「お前も謝れよ」
「…うん」

 土方さんが振り向いて私と目を合わせた。タバコの火が消え、同時に声がかかる。

「帰るぞ」
「家みたいに言うね」
「あ?家だろ」
「…うん、帰る」

 滑り台をすべって降りると、意味わかんねぇとでも言うような顔で土方さんが私を見下ろした。手を伸ばしたら「甘えんな」と言われる。

「私はガキですから甘えます」
「めんどくせぇ」

 そう言いながら土方さんは私の手をとって力強く引っ張って立たせた。来たときより視界が違ってみえた。こんな変化がいいなと思う。
 他愛のない話をして、屯所に帰ると入り口に近藤さんとかが立っていた。私たちを見ると近藤さんは半泣きで駆け寄って言う。

「どこ行ってたんだよお前は!お父さん泣くぞ!」
「誰がお父さんだよ」
「気分はお父さんなの!」
「ははは、ごめんなさい」

 そう言ったら近藤さんは私の頭を大きな手でわしゃわしゃ撫でて、くしゃくしゃの顔で笑った。同時に土方さんが手を離して少し寂しかったけど近藤さんの手の体温がやけに暖かくて泣きそうになる。

「おかえり」
「…ただいま」

 ちょっと声が震えて下を向く。大好き、だなぁ。
 下を向いたまま「総悟は?」と聞くと、近藤さんは私の頭から手を離して苦笑しながら言った。

「部屋だ。反省してると思うぞ」
「うん、私も反省してる」
「…そうか。じゃあ、謝ってこい」
「はーい」

 近藤さんがお父さんなのも案外いいかもしれない、と思った。そしたら土方さんはお母さん?あり得ない。
 新しい襖がつけられた総悟の部屋の前で深呼吸をした。すると急に襖が開いて、総悟が立ちはだかる。見上げたら「よう」と声をかけられた。驚いて開いたままの口をゆっくり動かす。謝るのって恥ずかしい。

「ご、めん」
「…俺も」
「……ガキだなぁ」
「まったく嫌になっちまうねィ」
「でもガキだから甘えられるよ」
「誰に」
「近藤さんとか。土方さんにも」
「…考えときまさァ」
「ははっ」
「おかえり」

 突然、総悟がそう言ったからまた泣きそうになった。ただいま、と早口に言って立ち去る。廊下でいろんな人が「おかえり!」と言ってくれるのに答えられなくてまた泣いた。あーあ、あーあ、私はまだまだガキです。
 少し下を向いていたから近藤さんにぶつかった。近藤さんは体格がいいから少し飛ばされたけどなんとか耐える。

「わわっ、大丈夫か?」
「ん…」
「どうした?どっか打ったか?」
「い、いや…」
「ん?泣いてんのか!?どうした!?」
「う、うざい!」
「お父さんって娘からは真っ先に嫌われるよな」

 土方さんがそう言って、総悟が後ろからきて「俺はお前が嫌いだけどな」と言ったから今度は二人のじゃれあいみたいな喧嘩になった。笑いすぎて涙が出た。


091121

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