「白石?」

 人の気配がしない放課後の廊下を一人で歩いていると、廊下の窓から強い風が吹いて嫌だったわけでもなく特に意図もなかったがきっちり閉じた。教室に行くと窓から校庭を見ていた白石が私の足音に気づいて振り向いてがっちり目が合う。白石は「おー」と笑って手をあげる。いつもの包帯が土で汚れていた。

「包帯どないしたん、汚れとるやん」
「部活でハッスルしすぎてん」
「ハッスルってどないな表現やねん」
「金ちゃんがな、あ、金ちゃんて俺の後輩なんやけど、一年の」
「知ってるで、あの豹柄の可愛え子やろ」
「せや。久しぶりに試合してやったら、ほんま、容赦なくてな」

 言葉は悪いけれども包帯をいじりながら喋っている白石は何だかとても嬉しそうでわくわくしているみたいだった。口元がにやけてるし、心なしか声のトーンも上がっている。
 好きなんやなぁ、部活が。
 それのひとかけらでも私に向いてくれたらどんなに幸せだろうか、と考えた。胸がチリチリした。水が飲みたい。

「成長が楽しみやろ」
「せやねん。そう言うたらみんなにオカンかって言われるんやけどな」
「オトンやのになぁ」
「そういう問題ちゃうわ」

 アホ、と白石は私の頭を軽く叩いた。たったこれだけなのに、今日の私はにやけながら帰るのだろう。そしていつも以上の機嫌の良さに弟が気味悪がるに違いない。頭の奥の奥がチリチリした。

「ってか、白石は何でここにおったん?」
「待ってんねん」
「誰を?」
「んー?」

 爽やかな笑顔の裏にもやもやが見える。もやもやしてるのは私の心で、それがにじみ出てそう見えたのかもしれない。
 彼女なんやろうなぁ。

「ほなあたし、帰るわ」
「おん、気ぃつけるんやでー」
「オカンか」
「もうええっちゅーねん」

 笑う白石に手を振って笑いながら教室から出る。一人の足音が妙に響いて上手く歩けているかひどく不安になった。
 西日が暑い。無意識に早くなっていく足に、自分自身はまったく追い付けていなかった。途中ですれ違った女の子は最近白石と話してた子で、この子かなと思うとどこかがチリチリして息苦しかった。
 通りすぎると、歩幅が狭くなる。もう歩いてるのだか、ただ足を交互に動かしてるだけなのか分からない状態で暑い西日を見つめると目がヒリヒリしてチリチリした。
 痛くて痛くて涙が出た。咄嗟に指で拭うと、拭った指の先がまたチリチリする。
 思わず「白石」と呟いたら今度は喉がチリチリして痛くて自販機で何かを買おう、として歩き出した私はすぐに止まった。
 せや、財布取りに教室行ったのに、ほんま、なんやねん。
 あー塵になってしまいたい、白石に焦がれて焦がれて、チリチリに塵になりたい。ほんで白石にホウキで掃いてもらうねん。白石オカンか。


090614

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