ペットが欲しいと言ったらアホ面さげた千里が「公園にカメが」と言いかけたので持っていたぬいぐるみを顔面狙って投げつけた。

「なんするとね」
「それ犯罪やから」
「そうなん?」

 知ってたような笑顔で千里はぬいぐるみをいじり始める。長身の千里が可愛いぬいぐるみを触るってことに大きな違和感があって笑いそうになるけれどこの九州男児にマナーっちゅうもんを教えなあかん。
 っちゅーかカメて!ピチピチの女子高校生がカメて!ハムスターとかやないんかい!

「千里は、自由すぎやで」
「自由がいかんと?」
「いや、千里のいいところやけど」
「それならよか」

 よかよか。千里は自己完結したかのように言い、ぬいぐるみの鼻を取るような仕草を見せる。いやいやいや、よかあらへんって!

「マナーとか決まりっちゅうもんがあるやん!」
「そがんなもんに振り回されるんは、好かん」

 千里らしい。千里らしくて胸がキュンてしてもーた、これじゃ流されて終わりそうやな。
 ふーっとため息でもなく息を吐き出すと、千里がぬいぐるみと共に私が座るベッドに近づいてくる。思わず仰け反ると、千里はぬいぐるみを私に向けた。

「デートせん?」

 喋りながらぬいぐるみを動かして、小さな子供相手みたいなことをするからぬいぐるみを叩いてやった。落ちた。千里は「あーあ」と呟いて、また笑った。自由にコロコロ千里が笑うからこっちまで笑ってしまう。
 あーあかんあかん、千里にはほんま甘い、勝てへん。

「どこ行くん?」
「ホームセンター」
「ペットショップちゃうんかい」
「ホームセンターなめたらいかんばい、いろんなカメが」
「カメにこだわりすぎやろ」

 笑いながら千里と手を繋ぐ。大きな手と身長、自由に笑う九州男児。好きやー千里好きやー。自由奔放でたまに身勝手で適当でたまにイラッとするけど好きやー。

「カメていくらするんやろ」
「カメ自体は安かけどいろいろ揃えると結構かかるばい」
「ほんま?エサ代とか高いん?」
「まぁ……行ってみれば分かることやけんな」
「適当やな〜」
「なんやかんやでカメ気に入っとると?」

 嬉しそうに千里が笑うから、「ほんまや!」と言う声が高くなる。千里がまた一段と笑う。

 ホームセンターには思いの外たくさんの動物がいて結局カメなんか見ずに、帰路へついた。楽しかったな〜と呟いたら千里が「腹減った」と言い出したからお好み焼き屋に寄った。家族連れが多く、小さな子供たちが騒ぎながらお好み焼きを食べていたのがすごく可愛らしい。

「可愛えな〜…ええな〜ちっちゃい子欲しい」
「…公園に、」
「アホか」
「冗談たい。子供は頑張るけん」

 あの千里が頑張るらしい。嘘くさくて思い切り吹き出した。嬉しくてちょっと涙が出た。お好み焼きの煙のせいにした。千里が何もかもお見通し、みたいな顔で笑った。
 千里、好きや。


091119

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