例えば君に会わなかったら今の俺はいないんだろうと思うことがある。君に会って変わった、俺はとても変わった。君のことがどれくらい好きだとかは言い表せれないけどそれだけは言える。君に出会って俺は劣化した試しがない。
 やる気があるんだかないんだか分からない顔で宿題をする彼女の髪の毛を右手で鋤くと、彼女はゆっくり俺を見上げて驚いたのか驚いていないのか分からない顔で呟くように言葉を吐いた。

「なに?」
「可愛いなと思って」
「知ってる」
「ははは」

 照れもしないところが可愛い。ちょっとくらい照れてくれてもいいのに。

「千石ってたまに変態みたいなこと言うよね」
「え〜今の変態みたいだったかな」
「千石が言うと変態」
「ひどいなぁ」

 笑うと、不機嫌そうに眉間にシワが寄る。可愛い。どんな顔をしても可愛い。正直こんなに誰かを可愛いと思ったことは初めてだ、君だけ。
 狭苦しくて見慣れた部屋が、何だかとても心地よいのは君がいるからで、テニスか今まで以上に楽しいのも君と一緒に帰るからで、学校が楽しいのは君に会えるから。俺の世界はずいぶん変わった。ちょっと色褪せて見えてたのに、クリアになって鮮やかになった。

「君のためだけに生きようかな」
「…それじゃあ、千石のご両親は悲しむね」

 俺を軽蔑するみたいな目で見て、俺を嫌がるような口調で彼女は言ってからまた宿題に取りかかる。

「うん、ごめん」

 彼女は俺なんか見てないけど笑って言った。謝ったけど、俺は君のためだけに生きるよ。


091119

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