甘いものを食べ散らかしていたら土方さんが何の合図もなしに襖を開けたから睨み付けた。土方さんは相変わらずの悪い目付きで私を見下ろし、山盛りになったお菓子に視線をうつす。まるで慣れたような仕草だったけど、土方さんにこの姿を見られたのは初めてだ。山崎あたりがチクったのだろうか。一種の癇癪である私の糖分異常摂取を知る人は数少ない。
「全部食うのか」
「食いますよ」
「太るぞ」
「太りません、吐きますから」
「…吐くのか」
「吐きますね」
何となく、私が優勢だと思った。何において優勢かとかは細かいから気にしない。話してる間も次々にお菓子を口に含む私を見る土方さんは静かに襖を閉めた。少し部屋に響いた。
部屋に入ってきたのに何も言わない土方さんを見上げると、土方さんは私の近くに座ってまたもやお菓子に視線を向ける。
「食べます?」
「いらねぇよ」
「? はぁ」
「どうしたんだよ」
「そりゃこっちのセリフですよ、なんかあったんですか?」
「お前だろ」
「何が」
「これ、食うの」
「あー…ストレスかってことですか」
「…違うのか」
「どうだろう、ただの癇癪っていうか、衝動っていうか」
室内がやたら静かに思えた。うわぁ、なんか言わなきゃ、とハッピーターンを無駄に音を立てて噛んで飲み込んだ。甘くて美味しい。目を合わせないし喋りもしない土方さんに、言い訳するみたいに呟く。
「土方さんの、タバコとかマヨネーズとかみたいなもんです」
次のハッピーターンの袋を開けるのをなぜか躊躇った。手が止まって、視点が定まらない。なんか混乱してる、何で私はここで土方さんと二人きりで、鬼の副長ともあろうお方に心配?されて、食べなきゃいけないのに食べれなくて、あぁ何だか叫びたい、そんな支離滅裂な気持ちだ。
土方さんはやっと私と目を合わせて、呟くように言った。
「吐くのは、辛いだろ」
辛いです、とても。
食べても食べても吐いても吐いても辛いんです、でもそうしなきゃやってられなくて、どうしたらいいか分からなくなって、見失って、今みたいに支離滅裂になっちゃうんです。
そのうち喉が焼けて声が出なくなってしまうんじゃないかって思うくらい胃液で喉が痛くなって、何度も何度も土方さんって言いたくなります、言うけど、うまく言えなくて、また涙が出ます。辛いよ土方さん。
思い出しただけでぼろぼろ涙が溢れてきた。土方さんがふやふやにぼやけてよく分からない。お菓子で甘ったるい喉を震わせて土方さんに呟いた。
「辛いです」
無言で土方さんは私の頭に手を置いて、体を寄せて、ハッピーターンの粉だらけな私の唇に自分の唇を重ねた。土方さんの空いた片方の腕がテーブルの上のお菓子を全部床に叩き落としてすごい音がしたの聞きながら、私は、幸せで、いっそ眠ってしまいたい感覚に襲われた。あんなにお菓子食べても満たされなかったのに、キス一つで満たされた。
土方さんは苦い味。
091117