銀行の立てこもり犯と人質がいる建物と、それを囲む無数のパトカーや警官がテレビに映っていた。テロップには何人殺されただの、犯人の経歴だのが流れてアナウンサーのいい加減聞きあきたセリフが繰り返される。生放送である。人質は気が気でないだろうに、全く無関係である私はお昼のカップラーメンにお湯を注いでいた。今日仕事を休んでいたら従業員もこんな思いしてないだろうな、と思いながらテレビを見つめる。
 同じ地球、同じ大陸、同じ国、さらに同じ都内にいるというのにこんなにも状況が違うことに改めて違和感を感じた。世界の裏では今、誰かが餓死したかもしれないと考えながら部屋に充満したラーメンの匂いを思い切り吸った。いい匂い。お腹が疼く。
 アナウンサーの声色が変わる。どうやら警察が動き出すようだ。警察?あれ?もしかして、笹塚さんがいたりするのかな。
 顔を思い切りテレビに近づけたら犯人の顔がぼやけたアップで映った。違う違う、私が見たいのはこの人じゃない。また上からの映像に戻り、再度警察の群れに目を凝らす。するとけたたましく携帯が鳴り始めた。びっくりして慌てて電話に出ると、笹塚さんが「よう」と呟く。

「あれ、笹塚さん立てこもり犯のやつにいないんですか?」
「立てこもり犯?」
「中継やってるやつ」
「いや、俺は今警視庁」
「なんだ、探しちゃった」
「今何やってる?」
「お昼食べようかなーって」
「良かったら、食べに行こうかと思うんだけど」
「行きます!」
「すぐ行ける?」
「あ、えっと、ちょっと時間かかるかも」
「そう。じゃあ迎えに行く」
「はーい」
「それじゃ」

 笹塚さんに会うのは一週間ぶりだった。それも笹塚さんからのお誘いなんて、嬉しいにも程がある。きっと仕事があるだろうからそんなに長くいれないだろうけど、それでもとても嬉しかった。何を着ようかと立ち上がって、背伸びをする。
 あ、ラーメン、忘れてた。
 いい感じに出来上がったラーメンを流しに持って行って、躊躇いもなく捨てた。テレビでは「世界には餓死する子供がたくさんいる」と募金活動のCMが流れていた。

「ごめんなさい」

 鏡を見たら、私は幸せそうに笑っていた。


091116

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