よく分からねぇが胸がざわざわしやがる。何か悪いこと、或いは予期しないことが起こるような気がした。例えば、俺は今日死ぬ、とか。
 自分で言うのもなんだが、俺の勘はよく当たる。

「ほう、それで何も起きないように仕事に行かねぇってわけだな」
「そういうことでさぁ」
「そうか、見廻り行ってこい」
「俺が死んでもいいんですかィ」
「構わねぇよお前の一人や二人。むしろ死ね」
「お前のが死ね土方」
「お前のが三回死ね」
「お前はマヨネーズで窒息しろ」
「お前は、あれだ、コノヤロー」
「学がねぇとこれだからいけねぇ」
「うるせぇな!お前も似たようなもんだろーが!」
「だからこそ俺達ゃ勘で生きてるんじゃねーんですか。今日俺は死にますよ」
「お前は死なねぇよ、俺の勘がそう言ってる」

 お前の勘なんかあてになりゃしねーよ。
 見廻りっつったってそこかしこに指名手配犯がいるわけじゃねぇし、もう散歩に近いもんだ。それでも今日は嫌な予感がするし、気を抜くと殺されそうな気さえする。何なんでィ、まったく。

「あ、沖田さん!」
「よう沖田くん」
「旦那…」

 呼ばれて振り返ると、万事屋の旦那とよくアルバイトをしている女だった。
 何でこの二人が二人きり?買い物帰りらしいがまるで夫婦じゃねーか。
 からかおうとしたが、できなかった。彼女を見下ろそうとしてもできなくて旦那を見上げる。

「買い物ですかィ」
「おう」
「今日は鍋なんです」

 やっと彼女を見下ろす。嬉しそうに笑う彼女に、口の端が迷った。
 迷う?何に?笑いたくても笑えないような状況だ。なんだ、分からねぇ、まるで戦場、いや、それ以上。頼むから旦那、若しくは彼女のどちらかにここから居なくなって欲しい。見られたくねぇ。

「お、こんな時間か。俺ドラマの再放送見るから先に帰るわ」
「え、銀ちゃん」
「荷物は俺が持って帰る」
「ちょっと、やだっ、待ってって!」

 やだって。

「じゃあな沖田くん」

 旦那が暢気に手を振るから頭を下げた。望み通りに片方がいなくなったが、旦那がいなくなった途端に慌て出した彼女を残してもらっても困る。俺はどうすればいいんでィ。
 とりあえずあわあわ動く手を掴んでみた。びくっと驚く彼女をよそに、脈打つ細い手首に俺の心臓まで脈打つように鳴った。離すな、と勘が言っている。

「お、おお沖田さん?」
「あー…」
「あの、えっと、お鍋食べますか?」
「…旦那ん家で?」
「はい、楽しいですよ」
「楽しい、ね」
「お鍋嫌いですか?」
「俺といるよか楽しいには違いねぇ」
「え?」

 あり?なんだこれ。何言ってんだ、俺。自分自身の何かに自分自身を委ねて喋ってやがる。学がねぇとこれだからいけねぇ。

「何言ってるんですか、沖田さんといるの、私、好きですよ!」

 俺は学がねぇ。だから分からねぇことが世の中にゃ溢れかえって迷うばっかりだ。勘ばかりがでしゃばりやがる、そんな男らに囲まれてたっつーのも悪かったのだろうか、まぁつまり結局勘でしか動けねぇただのバカだ。
 何がお前は死なねぇよ、だ土方コノヤロー、いま死にそうだコノヤロー。
 俺は学がなかった。だから人目も気にせず彼女を抱きしめる。慌てる彼女にドS心がくすぐられた。

「勘が当たりやがった」

 彼女が愛しすぎて死にそうだ。


091115

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