ごろごろ寝転がって、下から亮の顔を見てると違う誰かを見てるみたいで変な感じだった。真剣にテーブルの上の課題に取り組む亮と、そのテーブルの下から亮を見上げる私はかれこれ30分ほどこの状態だった。久しぶりに家デートというか、課題を二人でやるつもりだったのだが思いの外、私が早く飽きてしまって30分。亮は真面目だなぁ、と頭の隅で思いながら亮の顎から耳へのラインをじっと見つめた。綺麗にカーブするラインに我が彼氏ながら惚れ惚れするのは、やっぱり恋心からだろうか。

「亮、暇じゃない?」
「見ればわかるだろ、忙しい」
「私は暇なんですけど」
「課題しろ」
「終わったら見せてよ」
「却下」

 べし、と亮の足を叩いたら頭を叩かれた。思わず変な声を出すと「バーカ」と亮が笑う。やっぱり課題するよりこっちの方がよっぽど楽しいよ。早く亮も諦めちゃえばいいのに。まぁあとですごく後悔しちゃうんだけどね。きっと亮は後悔をすることが嫌いなんだろうなと思う。やるだけのことはやりたい、というか、とにかく悔いなんか激ダサだと思ってるタイプ。かっこいいだろ。私の彼氏かっこいいだろ。
 ふと亮と目が合った。「なんだよ」と照れる亮に笑い、亮の近くにあるリモコンに手を伸ばすと亮は少しビクッとした。「何もしないよ」と笑いながら言ったら「うるせぇバカ」と赤い顔で怒られた。あらら。
 テレビをつけると、いま売れている芸人が旅行番組に出ていた。ヨーロッパのどこからしいけど、目が悪いから文字が見えない。綺麗な街並みと、日本にはない雰囲気が私の目を奪った。

「…ドイツも良かったけどこういうとこもいいよね」
「あ?」

 亮はやっぱり課題に集中してて、テレビにさえ目を向けていない。めげずに話しかける。

「どっか外国行きたい」
「ドイツ行っただろ」
「…だからさー」

 また続けようとして、やめた。集中してる亮に何言ったって無駄だ。私もテレビに集中しよう。

「あー美味しそう」
「うるせぇ」
「ひど」
「…」
「…」

 テレビの中の芸人がなかなか面白いことを言ってニヤニヤした。亮を見ると、真面目な顔をして課題やってるからこんな顔見せられないと引き締める。でもやっぱり面白い。

「亮、テレビ見ようよ」
「却下」
「出た却下」
「あーうるせぇ、お前も課題しろ」

 そう呆れ混じりに言いながら、亮は私の筆箱からシャーペンと消しゴムを出して私を急かした。亮のがうるさいと思う。うるさいというか小うるさい。跡部みたい。テニス部じゃ、きっと跡部の次に真面目だ。

「課題したらここ行きたい」

 テレビを指すと、亮はやっとテレビを見た。眉間にシワを寄せて今度は私を見る。

「ドイツじゃねぇか」
「え、うそ」
「行っただろ、あれ」
「わーほんとだ。ここ超綺麗だったよね」
「まぁな」
「あー見たこれ見たこれ!ってかこのオッサンと話したよね私!」
「話したっつーかお前が買ったもんぶちまけて笑われて拾ってもらっただけだろ」
「ダンケダンケ!」
「んだよそのテンション」

 亮が可笑しそうに笑った。次々に出てくるちょっと懐かしい場所に二人で思い出を混ぜながら話してると、いつの間にか最後まで見てて芸人が「いやードイツ最高っすね!」などと締め括ろうとしていた。

「うん、ドイツ最高。また行きたい」
「ソーセージ食いてぇ」
「私も。またいつか行こうよ」
「んな金ねぇよ」
「私も」
「バーカ」

 亮が笑う。あれ、なんかさっきより近い。いつの間にか亮のかなり近くに座っていた。亮もそれに気づいて「…近くね」と少し赤い顔で呟く。キスでもしとこうかな、と考えてたら机の上に放置された二冊の課題と二本のシャーペンと二個の消しゴムがなんかその気持ちをどっかにやった。しちゃいけない気がした。

「ってゆーか課題しなきゃ」
「お前が言うか」

 近くの亮が頭突きをする。あー何でテレビなんか見たんだろ、と時計を見ながらやっぱり後悔して、亮は半分以上終わってて、切なくなった。亮はここにいるけど時間はない。ドイツに逃げたい、と呟いたら今度はペットボトルで叩かれた。真面目な亮はまた無言になって、私はどうしても外に出たい気持ちに駆られる。切なくなって、亮に寄りかかったら「課題やれ」と揺すられて無視したらそれすら亮に無視された。目を瞑る。なぜか幸せな気がした。


091115

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