「なんや謙也に避けられてる気ィすんねん」
「そら、おめでとさん」
「白石はほんまは冷たい奴やな」
「ありがとう」

 白石の胡散臭い笑顔に、私の口の端が不器用に上がる。ある意味私もこいつみたいに胡散臭い笑顔をしてみたいものだと思うが、そんな笑顔はまったく無意味だし実は悲しいのではないのかとこっそり思った。白石は頭がいいから、私が白石の考えることを予想するなんて難しいことはできないけれど、何となく白石も大変だと感じる。
 教室の真ん中で謙也がバスケ部の奴らと騒いで、嫌がる奴もいれば楽しげに見つめたり、恋をするように見つめたりする子だっていた。いろんな人がいるもんだ、とふと思いながら謙也に視線を向けるとかち合って、すぐさま避けられる。

「やっぱり嫌われたんやろか」
「心当たりがあるんか」
「いや、ないねん。白石分からん?部活んときとか私なんかした?」
「さぁ?謙也のことは予測しにくいからなぁ」

 頭のいい白石でも頭の悪い謙也の考えることが分からないという。まぁ私に分からなくて当たり前だ。

「話しかけても逃げるねん」
「悲しい?」
「そら、なぁ?」
「なぁ言われても」

 白石が笑うと白い歯が見えた。眩い。



 曇った空が広がる放課後、金ちゃんやみんなが本日のおやつについて話し合っているのをBGMに私はタオルを畳む。落ちなかった汚れを爪で引っ掻きながら、謙也が私を避ける理由を考えたけれどぐるぐる回るだけで何も捕まらない。

「よっしゃー!今日はたこ焼きや!」
「っちゅーわけでよろしく頼むわマネージャーはん」

 いつもより何故か上機嫌な白石が私に財布を投げてくる。それをキャッチして、タオルをかごに詰めて立ち上がると金ちゃんが大声で「ワイ二つなー!」と言った。二パックも食べるん、と言おうとしたら白石たちも間髪入れずに「俺も」「俺も」「わても〜」「俺も」と声を上げる。
 なんや、みんな上機嫌やんな。うちは悩んどるっちゅーに。

「あれ、謙也くんは?」
「ほんまや、おらへんな」
「謙也は走りに行ったで」
「何で?」
「知らん」

 白石はやはり冷たいと思う。
 風がびゅうびゅう吹くのが冷たくてジャージのチャックを上げた。テニスコートを出て、校門も出て、相変わらずの街中を歩く。ポケットの中で財布をいじりながら謙也はたこ焼き何個いるんやろか、と考えた。みんな二つなら謙也も二つ?せやけど、もし、謙也が二つも食べる気ぃ無かったらただのお節介や。人のことを考えるのは難しい。
 寒い風にうつ向きがちだったけれど「ばう!」と真横で玄関先で繋がれた犬が鳴いたからびっくりして思わず前を向く。金髪が早めのスピードでジョギングをしていた。

「謙也!」

 思わず呼ぶと、謙也は目が合ったにも関わらず下を向いて気づかないフリをする。なんや、なんやねん、ほんま。

「今からたこ焼き買いに行くねんけど、謙也何個いるん?」

 謙也の行く道を塞ぐと、謙也はやっと私と目を合わせた。ほぼ睨んでいる私を見ながら息を整える。
 お、なんや、久しぶりに謙也の顔をこない近くで見た気ぃするわ。ちょっとかっこいいやん。とか考えてると謙也はまた私を無視して走り出した。
 意味分からん!怒ってるのか悲しんでるのか分からない私の脳内が沸騰するかのごとく顔が熱くなった。喉が急に痛みだしたのも構わず、私は叫ぶ。

「何個かって聞いてるやろ!!」
「ワン!」

 私の大声に犬も叫び、謙也が立ち止まる。シーンとした空気に二秒しか耐えられなかった私は痛い感じの笑いを謙也の背中に投げ掛けた。

「はは、分かった、ワンな、一個やな」
「いやそれそこの犬の鳴き声やないかい!」

 謙也が振り向いて大いにつっこむ。その姿に嬉しいのやら、ほんま意味分からんイライラやら、情けなさや虚しさが巡りに巡って涙が出た。まるで報われない恋をしてるみたいな気持ちになって、訳が分からなくなって逃げるように走った。
 後ろで謙也が「あーもーなんやねん!」と叫んで、また犬が吠えた。こっちのセリフやと何度も念じるように心で叫びながら、たこ焼き屋まで走った。

 次の日、謙也に告白された私は謙也の考えることがやっぱり分からなくてフった。
 変な自己嫌悪の途中に白石が「大丈夫かー?」と暢気に心配してきてちょっとドキッとした。謙也の考えることも分からんかったけど私が謙也を好きだったかも分からんかった。
 世の中分からんことだらけや、と呟くと「謙也もおんなじこと言うとったで」と白石が返してくる。謙也も、と想像すると何故か手足が痺れるほどドキドキした。


091025

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