映画を撮るために来た海外で、ふと兄貴のことを思い出した。しばらく連絡を取っていなかったし、お土産でも買って近況でも話そうと決める。あまり高いものを買うと気をつかいそうだ、と兄貴を考えながらお土産を考えた。共演の女優さんがスタッフと「このチョコ美味しい!」と話しているのが聞こえて詳しいことを聞いた。

「幽平さん、チョコ好きなんですか?」
「兄にお土産を買おうと思って」
「お兄さん、甘いもの好きなんですね」
「横取りしたら冷蔵庫を投げられそうになるくらいにね」
「え?」


「え?」

 兄貴の部屋に行くと、知らない女性が出てきてきょとんとした顔でそう呟かれた。連絡してからくれば良かっただろうか、と思ったけれど何となく彼女も一緒に暮らしてるんじゃないんだろうかという考えが浮かぶ。

「ナマエ?」

 兄貴の声と足音がして彼女から視線を外して見ると、兄貴は俺に気づいて笑った。

「幽」
「久しぶり。急に来てごめん」
「何で謝るんだよ。どうしたんだ?」
「海外に行ってて、お土産を買ったから」
「まじかよ、悪ィな」

 それこそ謝ることなんかないよ、と俺が言うと俺と兄貴の話に挟まれたナマエという女性はふと優しい笑顔をした。兄貴は気づいてなかったみたいだけれど、その笑顔が綺麗で優しいと感じて何故かホッとした。

「積もる話もあるみたいだし、お茶でも淹れようか」
「おう、そうだな」
「私お茶淹れるね」
「サンキュ。時間大丈夫か?幽」
「うん、今日はオフだから」
「あがれよ」
「お邪魔します」

 彼女にも一礼すると、彼女も軽く頭を下げた。彼女だけ慣れたように台所で止まり、俺と兄貴はリビングへ向かう。兄貴の向かい側に座ると、兄貴は彼女の方をチラリと見てから俺の視線に気づいたのか照れくさそうに笑った。

「彼女さん?」
「まぁな。一緒に住んでる。報告しなくて悪い」
「大丈夫だよ。幸せそうだね、二人とも」
「…お前が言うならそうかもな」

 また照れくさそうに兄貴は笑って言った。俺も笑うと、彼女がお茶を持ってきて俺と兄貴の前に置いて兄貴の斜め後ろに座る。

「ナマエ、知ってるだろうけど弟の幽」
「はじめまして、平和島幽です」
「ミョウジナマエです。丁寧にありがとうございます」
「お前ら敬語じゃなくても」
「「いいの?」」

 声が重なってしまい、兄貴が笑う。ナマエさんも笑って「よろしく、幽くん」と言ってくれた。それを見た兄貴が今度は幸せそうに笑う。ひたすら兄貴はナマエさんが好きなんだな、と感じた。それと同じでナマエさんもひたすら兄貴が好きだと思う。とても好感が持てたし、素敵な人だと思った。

「いつから?」
「いつからだったかな」
「一緒に住み始めた方が長いんだよな」
「え?」
「いろいろあってよ」
「まぁ、私たちのことより兄弟水入らずで話したら?しばらく会ってないって静雄言ってたじゃない」
「そうだな。海外って、撮影だったのか?」
「うん、映画で」

 言いながらお土産を渡すと兄貴はサンキュ、と言ってパッケージを見る。ナマエさんも覗き込んで英語を読んだ。

「美味しいって評判のチョコレート。ナマエさん甘いものは平気?」
「うん」
「良かった」
「ありがとう」

 嬉しそうなナマエさんを見て兄貴も嬉しそうだった。そんな兄貴を見て俺も嬉しいと思う。

 近況を話し合って、時計を見ると結構な時間が経っていた。

「そろそろ…」
「飯食って行けよ、オフなんだろ?」
「迷惑だよ。ナマエさんが作るでしょ?」
「幽くんの口に合うか分からないけど、食べてくれるなら嬉しい」
「ナマエの飯美味いぜ」
「…兄貴たち結婚しないの?」
「けっ…!?」

 俺が言うと、兄貴は赤くなってナマエさんは驚いたような顔をしていた。つい思ったことを言ってしまい、自分も少し驚いた。多分二人にはバレてないと思う。言葉が出ないような二人に言った。

「結婚しても関係は変わらないと思うけど。兄貴たち見てると結婚なんて肩書きみたいに思えるね。お似合いだと思う、改めておめでとう」

 そう言うと赤い顔で呆然とした兄貴をナマエさんが見て、それに気づいた兄貴が手で口を押さえた。クスクスとナマエさんが笑い、俺に「ありがとう」と言う。やっぱりいい人だと思った。心から良かったとも思う。

「じゃあ、また今度」
「また来いよ」
「うん、実家にも行かないとね」
「だな」
「その時はナマエさん連れて行きなよ?」
「…そのつもり」
「うん、父さんも母さんも喜ぶと思う」
「おう」
「ナマエさん、兄貴をよろしくね」
「…はい」
「どうしたの?」

 急に敬語になった上、何だか目を合わせてくれなくて様子がおかしいナマエさんに聞くと兄貴が「照れてんだよ」と笑って言った。思わず俺も笑ってしまい、兄貴が「わかりやすいだろ」と言う。

「可愛いね」

 ナマエさんが小さく「やっぱり静雄と似てる」と照れ隠しのように言って嬉しくなった。兄貴も嬉しそうに「何だよ」と答え、それを見てナマエさんは笑った。
 何だろう、幸せってこういうことを言うんだろうね。
 結婚するわけでもないのにまた「おめでとう」と言いたくなった。とりあえず心の中でもう一度、おめでとう、兄貴とナマエさん。

100916


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