「お前、どうやって帰るんだ?今夜はもうみんないねぇぞ、俺も今から社長と出かけるしよ」
「あ、大丈夫です、あてがあるんで」
「ならいいけど間違っても一人で出歩くなよ、お前静雄の女と勘違いされてんだから」
「はい。お疲れ様です」
「おう、お疲れ。あ、俺が出た後はもう一度鍵しめとけよ」
「はい」
「頑張れよ」

 にやり、とトムさんは笑って出て行った。楽しそうだなぁ、と思いつつ言われた通りにもう一度鍵を閉める。
 携帯を開いて着信を確認するけれど静雄からの連絡はなかった。ないとは思っていたけれど少し残念に思いながらも電話帳を開いてドタチンの名前を探す。
 あ、門田、か。と気づいてやっと電話をかけた。

『よう』
「久しぶり、ドタチン」
『珍しいな、どうした?』
「今暇?暇なら事務所に迎えに来てほしくて」
『あぁ、いいぜ。ちょうどさっき仕事が終わったとこだ。5分くらい待ってろ』
「ありがとう」

 5分後、事務所から出るとちょうどドタチンが来ていた。渡草さんの車に乗せてもらう。

「渡草さんとかは?」
「アニメイトだとよ」
「ルリちゃんの新曲出るもんね」
「で、どこに行けばいいんだ?」
「静雄の家でお願いします」
「静雄は?」
「告白しようとしたら逃げた」
「やっぱり臨也と別れたのか」
「やっぱりって?」
「何となくだ。静雄との方が合ってるんじゃねぇか?」
「そうだといいけど」
「で、静雄が逃げたって?」

 あいつが、とドタチンは可笑しそうに笑うから苦笑をしていた私もつられて笑った。

「そう、逃げたのよ」
「それは余程怖かったんだろうな、お前が」
「そうかもね。私がセルティみたいな身体だったら受け入れられたかしら」
「いや、あいつはそれでも怖がるよ」
「優しいものね」
「…お前、変わったな」

 ドタチンはまた可笑しそうに笑った。珍しいものを見た、というような笑いだ。トムさんにも似たようなことを言われた、と呟くとドタチンは続ける。

「そんなに笑う奴じゃねぇと思ってたよ」
「そう?」
「臨也といたときはもっと冷めてたな。人生はこれだ、って決めつけてるような」
「…そうかもしれない」

 臨也といるのが私の幸せだ、だから何も言わない、何も望まない、臨也が愛してくれる、それだけでいい。そんな考え方をしていたのが昔のようだ。きっと私はそう思い込もうとしていただけだ。それが「間違いのない幸せ」だと。傷つくのが嫌でそう思い込もうとしていただけだ。でも臨也がくれた幸せは少なくとも本当に幸せだった。それは間違いない。
 「人生はこれだ」と決めたら何もかもを思い込もうとしていたからダメだ。以前の私なら静雄に拒否された今、もう傷つきたくないと諦めていたに違いない。傷つかないフリをして「本当は好きじゃなかったんだ」と思いこもうとするだろう。でも今の私は違う。拒否されてもいいから伝えたい。私は静雄が好きだということを知ってほしい。

「セルティになりたい」
「セルティには新羅がいるだろ」
「セルティと同じ身体になりたい」
「前のお前なら無理なものは望まなさそうだったけどな」
「…」
「恋してんな」
「…恋だなんて、もう24なのに」
「歳が関係あんのか?」
「ない、けど」
「きっと結婚しても幾つになってもするんだろうよ、恋は」
「なんか恥ずかしいドタチン」
「お前な、…」

 たしなめようと私をチラリと見たドタチンは言葉を不自然に止めた。

「何?」
「まじで顔真っ赤だぞ…」
「だから恥ずかしいって言ったじゃない、改めて恥ずかしいわよ恋なんて、24にもなって初恋みたい」
「…」
「中途半端に笑わないでくれる?」

 悪い、と呟いてからドタチンは笑った。私はやっぱり恥ずかしくて顔に手を当てたりしてみる。熱くて、落ち着こうと思っても静雄の顔が急に浮かんでまた熱くなった。何で、いつもは熱くなんかならないのに、ドタチンのせいだ。ひとしきり笑ってからドタチンは言う。

「大丈夫だ、静雄も同じくらいのスキルだからな」

 何が大丈夫なのかはよく分からないけど確かに、と可笑しくなった。

100617


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