その後、静雄から「遅くなる」というメールがきた。一人で帰ったら怒られるだろうか、と多少の期待と、そもそも私と普通に接してくれるだろうかという不安があった。何にせよ暗くなってしまった街を一人で歩く気はしないし、今日はやけに救急車やパトカーが多い気がする。それに私は静雄の女だと勘違いされてるから誰かに襲われる、なんてこともあり得なくはないだろう。
 今日は事務所に泊まろうと決めたとき、誰かの足音がした。他の人はもう帰ってしまったけれど鍵はかけているから大丈夫と思っているものの、少し不安だ。やってきた奴はドアノブを回すが開かないドアに「あれ、何で開かねぇんだ。ナマエー?」と言った。トムさんだ。私は急いで鍵を開けてドアを開く。

「すいませんトムさん」
「あれ?お前一人か?静雄は?」
「え?トムさんと一緒にいるんじゃないんですか?」
「いや、予定が狂って解散したんだよ」
「メールがきて、遅くなるって…」

 救急車とパトカーが近くを通る気がする。決してウキウキする音ではない。自然に外に目を向けていたら、トムさんが呆れたように私に言った。

「何かあったのか?」
「…告白しかけたら、やめろって言われました」
「静雄のやつ、もったいねーことするなぁ」
「不完全燃焼です」
「ははっ、まぁ、あれだな、あいつは自分の力が怖ぇから」
「やっぱりそんなこと思ってるんですか」
「気付いてたのか」
「一緒にいたら気付きます。ちょっと力をセーブ出来なかっただけで申し訳ないというか、少しだけ泣くかな?って顔します。臆病なんだなって。気にしないのに、私は。静雄が悪いことなんて全くなかったんです。嫌われるのが怖いから他人と接しないだけです」
「…そこまで分かってくれるやつを拒否るとはよっぽどの臆病者だな」
「それか私を恋愛対象として見れなかったんですよ」
「相変わらず冷静だな」
「私もちょっと急ぎすぎました。がっついてる、って感じで我ながら引きます」

 別に言う必要はなかった。言わなければ今まで通り仲良く、ある意味同棲生活を続けられただろう。今頃一緒に笑いながらご飯を食べていたかもしれない。少し悔やまれる。でも静雄が謝ったりするから嫌だったのだ。私は嬉しかったと伝えたかった。静雄があんな風にあんな顔で謝ってくるのが苦しかった。
 トムさんは相変わらずへらへら笑って呟く。

「恋だねぇ」

 少し恥ずかしい響きだったけれど、間違いなく私は恋をしている。それも自分の気持ちを抑えられないような、そんな恋だ。

100616


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