「何で事務所に逃げなかった?」
肩をがっしり掴まれ、静雄が私の目を逃がさないように見つめてきた。平然な顔を頑張るけれど脳の裏から顔の皮ギリギリ内側まで熱い。
やっぱり静雄はかっこいいと思う。こうやって心配してもらえることがこの上ない幸せだ。臨也といたときにも感じてたこともあったけれど、それ以上に大きくて優しくて暖かい。
「ごめん」
「何もなかったからいいけどよ、もし他の奴らが」
「静雄…あの、痛い」
「! 悪ィ!」
バッと静雄は私から手を離した。少し泣きそうな、申し訳無さそうな顔をしている。あ、そうか、力について静雄はコンプレックスを持ってるから。私を傷つけたくないんだ。
「…痛いけど謝ることはないよ」
「ナマエ…?」
「心配かけた私が悪い、ごめんなさい」
「…おう」
「お弁当買いに行こうか」
「そうだな、だいぶ時間食っちまった」
「静雄」
「あん?」
「臨也と別れてきた」
「あ!?」
「気持ちに整理がついたの。もう大丈夫、いろいろごめんね」
「…泣きそうな顔してんだけどよ」
「うん、泣きそう。すごい充実してる、何か分からないけど嬉しいんだと思う」
「思う?」
「ううん、嬉しい」
「…そうか」
静雄は笑って私の頭を撫でてくれた。ここで抱き締めてくれたらなぁ、と切なくなったけれどこれでこそ静雄だ。きっと恋人しか抱き締めないに違いない。
100615