「ほか弁食べよう」と社長が言い出した。珍しく静雄とトムさんが早めに事務所に集まっていたからだと思う。いつもはあんまり事務所に寄りつかないし、お昼時になんてもっと珍しいことなのだ。
 いいっすね、とトムさんが言ったから「じゃあ私行きます」と言ったらトムさんが「んじゃ静雄も手伝ってやれよ」と言って静雄を立たせたから二人で行くことになった。何がいいのかを聞いた後、二人で事務所を出ようとしたときトムさんが笑ってることに気づいた。あ、この人私たちをくっつけたいだけか、と呆れる。
 そもそも、最近の静雄の私に対する態度がおかしいのだ。どこか気をつかってるような。目を合わせるとすぐそらしたり、ずっと私を見ていたり。静雄はこっそり誰かを見ることに長けてない気がする。もしくは私が気づきやすいのか、自意識過剰か。とにかくそんな静雄にトムさんも気づいてるはずだ、私より付き合いが長いのだから。
 惚れられたかな、なんて考える。ちょっと、いや、けっこう嬉しい。彼が愛してくれるならそれは幸せなことだ。私が彼を純粋に愛せば私たちは誰よりも幸せになれるだろう。
 あれから臨也からの連絡はなかった。もう一週間になるだろうか。静雄からも勿論「臨也」なんて単語は出ない。臨也は今何をしていて、何を考えているのだろうか。…やっぱりこんなことを考えているあたり、私は臨也が好きなのだろう。
 事務所から出ると、少し違和感を覚えた。静雄を見上げるけど静雄は何も感じてないらしい。さり気なく呟いてみた。

「…今日はやけに人が多い…気がする」
「そうか?」
「いや、だって、」

 歩きながら続けようとすれば、嫌にニヤニヤした男たちが私たちの進路を塞いだ。嫌な予感だ。とか考えてたら今度は横も後ろも囲まれた。男たちの馬鹿にしたような笑いや、カラカラと鉄パイプ的なものを引きずる音がする。

「…何だ手前ら」
「静雄…」
「ナマエ、事務所に走れ」
「…できたら頑張ります」
「おう」

 静雄は振り向いて、いきなりすごい勢いで後ろを囲む男たちを殴り飛ばした。倒れた男たちと驚きと恐怖で一瞬だけできた道を走って事務所に向かう。私が静雄から離れた途端、静雄がいる方向から鈍い殴り合いの音や叫び声が聞こえた。ガン!と痛そうな音がして静雄の呻き声が聞こえたもんだから振り向こうとしたら誰かに引っ張られる。
 やだ、静雄、

「ナマエ」

 臨也だ。
 事務所の脇の路地に引っ張られ、狭いこともあって臨也の胸に張り付くかたちになった。臨也の匂いがして目眩がした。久しぶりすぎて動悸が激しい。

「臨也…」
「久しぶり」
「あの人たち、臨也が仕掛けたの?」
「…シズちゃんの心配するんだ?」

 どうしてだろう、後ろめたくて臨也を見つめるのも匂いを感じるのもできなくなった。静雄のような、居心地のいい匂いがしないなんて考えるのは、いけないことなんじゃないんだろうか。

100611


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