平和島静雄の部屋から出てきたゴミはカップラーメンやコンビニ弁当の空、ファーストフードの袋などそういうものばかりだった。ローソンやマックに偏ってるとかじゃないが、こんな食生活をしてよくあんな体型と体力が保てるものだ。さすが臨也が唯一毛嫌う人間、予想以上にすごい。
 破れたり血がついたりしているバーテン服を捨てていいものかと迷っていると、鍵が開く音がして玄関に向かう。当たり前だが家主の平和島静雄だった。平和島静雄は私と部屋を見比べ、きょとんと綺麗な形をした瞳を私に向けた。

「お前が片付けたのか?」
「あ、はい。あ………勝手にすいません」
 
 考えてみればかなり失礼なことをしたかもしれない。下着とかふつうにあったし…。平和島静雄を見上げると、彼は「悪い」とつぶやいた。やっぱり温厚な人だ、と毎回ながらびっくりしてしまう。

「あ、また謝っちまったな」
「私も、さっき」
「じゃあ今のはスルーだな」
「ですね」
「弁当買ってきた」
「すいま…ありがとうございます」
「よし、食うか」

 平和島静雄は大きなコンビニの袋を持っていた。明らかに二人分じゃない量の弁当だ。もしかしたらここ数日の分を買いだめしてきたのかもしれない。ずっと一人暮らしをしていたせいか、出費を考えると動悸が激しくなった。そんな私に気付かずに平和島静雄は「好きなの取っていいぜ」と弁当を広げ始める。そんな弁当より私の脳裏には先ほどキッチンで見つけた、ほとんど使われてないと思われる包丁やフライパンや鍋があった。自炊の方が確実に経済的だし、健康にもいい。何より、このまま平和島静雄と同じ食生活は凄まじく太りそうだ。
 私は自分も何にしようかと迷っている平和島静雄に喋りかけた。

「あの」
「ん?」
「良かったら、なんですけど」
「これ食いたいのか?」
「いや、そうじゃなくて」
「なんだよ」
「私、ご飯作りましょうか?」
「…お前が?」
「だって、このままだと経済的によろしくないですよ。…太りそうだし」
「太るか?」
「太ります」
「気にするほど太ってねぇだろ、お前」
「気をつけてるんです、って経済的にも、ほら」
「まぁ、な」

 もうちょっとだ、と言葉を続けようとしたら平和島静雄の携帯が鳴った。トムさんだ、と呟きながら平和島静雄は携帯に出る。

「もしもし。…あぁ、はい、いいっすよ。はい、…まじっすか。はい、はい…分かりました。…え?……手なんか出しませんよ」

 うわぁ、下世話な会話してる。いきなり視線をどこに置こうか迷った。平和島静雄は数回返事をしたあとに「失礼します」と礼儀正しく挨拶しながら携帯を切って呟いた。

「トムさんがよ、お前を事務所に紹介するってよ」
「えっ」
「事務してほしいんだと。とりあえず社長に会ってもらうっていうから明日俺と…」
「え?え?」
「…仕事ねぇと困るだろ?」
「あ、いや、そこまでしてくれるなんて思ってなくて…」
「まぁ給料は多少ひかれるだろうけどな」
「はは…」
「明日、行くだろ?」
「あ、はい」
「おう」

 俺、これにするわ。と平和島静雄は牛丼を手にとった。お前は?と聞かれて慌てて自分が好きそうなものを探す。って、そうじゃなくて

「自炊の件なんですが」
「あー、そうだったな。でもお前ももし仕事始めたら忙しくなるだろ」
「…これは予想なんですが、平和島さんは帰り遅いんですよね?」
「そうだな。今日は早かったけど」
「じゃあやっぱり私が作るべきじゃないですか?居候なんだし」
「…お前、引く気ねぇな?」
「ありません。フェアじゃないのは嫌いなんです」
「はっ」
 
 平和島静雄は軽く笑って私を見た。改めてみると穏やか目をしている。笑うと、安心してしまう。恐怖からの解放とかそういうのではなくて「あ、笑った」と純粋にうれしい。比べることでもないけど臨也は意地の悪い顔しかしなかった。そこも好きだったけど。

「分かった。フェア、な。うん」
「?」
「ならお前も敬語なしな」
「…なんでそういう話になるんですか?」
「フェアじゃねぇだろ、俺は敬語じゃねぇのに」
「…」
「静雄でいいよ」
「…」
「不満か?」
「分かりました」
「もう駄目だな」

 また平和島静雄は笑った。臨也とはまた違ったマイペースだ、やりにくい。

「で、どれにするんだ?ナマエ」

 びっくりして少し顔が熱くなったが、彼は私のことなんて気にせずにビニールを開け始めた。「ナマエ」と急かされるから素早く手を伸ばす。

「静雄と同じ、牛丼で」
「とことんフェアだな」

 俺これも食うけど、と静雄はおにぎりを掴む。楽しそうに笑うからからかわれていることに気付いた。しかし牛丼を食べた上におにぎりを食べるなんて無理だと思ったから断った。いただきます、と言うと既に食べ始めていた静雄になぜか笑われた。

100411


×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -