平和島静雄の家は池袋の少し深いところにあった。若い女性は好まないような雰囲気があるし薄暗くも感じる。きっとここで襲われて大声を出しても誰も気づかないだろう。平和島静雄は家の鍵を開けると「ちょっと片付けてくる」と言って中に入ったので私は玄関で待つことにした。靴は多くはないが、散らばっているから居場所に困る。
小さなキッチンにコンビニの弁当箱やカップラーメンの空を見て、一室しかなさそうなこのアパートで私は平和島静雄と暮らすのか、と何故か言いようのない期待感を感じた。期待感なのか焦燥感なのか少し分からなかったが、チリチリするような感情だ。変な鼓動に恥ずかしくなる。平和島静雄はただ私の携帯を壊したことによる罪滅ぼしでやってることでしかないのに。

「いいぞ」

 不意に呼ばれて慌てて靴を脱ぐと、最初からあった平和島静雄の散乱した靴と混じって焦る。急いで自分の靴を整えて、ついでに平和島静雄の靴も整えてると「何やってんだ」と平和島静雄が私の後ろに立った。

「あぁ、悪いな、俺がやるから」
「あ、いや、すいません、大丈夫です」

 靴を並べ終えて平和島静雄の後ろをついていくと、予想通り一室しかなく、ベッドとテーブルとテレビ、収納と散らかったゴミやら段ボールやらが床の面積を小さくしていた。二人ならまだいいだろうけど三人入るとなかなか鬱陶しくなりそうな面積だ。掃除をすれば多少はマシになるだろうな、と考えていると平和島静雄は「散らかってて悪いな」と言った。私はそんなことに文句を言える立場じゃない。首を横に降ると、平和島静雄は腰に手を当てて言う。

「とりあえずもう8時になるし、俺は仕事に行くけど」
「あ、はい」
「腹は?減ってねぇか?」
「…少し」
「まぁカップラーメンくらいしかねぇんだけどな。悪いな、いいか?」
「はい、すいません」
「…あのさ、いちいち謝らなくていいから。一方的な親切じゃねぇんだし」
「平和島さんもここに来て『悪いな』って三回は言いました。私だけ謝らないのはおかしいです」
「…」

 平和島静雄は黙り、しまったと私はとっさに思った。殴られるかもしれない。臨也によれば平和島静雄は些細なことでもすぐにキレるらしい。まぁ臨也には無条件でキレるらしいが。視線を合わせにくくて平和島静雄のネクタイのあたりを見ていると、平和島静雄は言う。

「確かにそれもそうだな。じゃあお互い気ぃつけるか」
「…はぁ」
「あ、やべ、そろそろ行かねえと。カップラーメン勝手に食っていいから。適当に箸とかも使って」
「はい」
「じゃあな」

 バタン。ガチャリ。ドアが閉められ、鍵がかかる音がする。
 …けっこう温厚なんじゃ?
 今までの流れからも思ったほど怖い人物ではないらしい。前々から平和島静雄から臨也が殴られようが物をぶつけられようが臨也には同情したことはなかったが、改めて臨也に同情の余地はないだろうなと思った。むしろ平和島静雄の方が臨也にいろいろされていそうだ。
 緊張がとけたのか、急にお腹の減りを感じた。端に積まれてあるカップラーメンを物色しながら辺りを見渡す。

「…」

 先に掃除しようかなぁ。


100411


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