彼を任務へと送り出す日は地獄だ。
払っても払っても拭えない不安が私の足元から胸元までどんよりと絡みついて、頑張って笑顔を絞り出すけどその夜は涙しか出ないのである。
そんな気持ちを何年も、勝手に、密かに抱えている。私に「好きです」という言葉を言う勇気はない。だから不安をふり払えないのだ。

おれを送り出す時のナマエの顔と言ったら、正直見ていられない。
せめて「頑張ってね、気をつけてね、絶対帰ってきてね」とコアラに向けるような情けない顔をしてくれればいいものの、おれに対してナマエは「気をつけね、サボ」と笑顔を向けるのだった。
その笑顔は今にも泣きそうだと思う。笑顔だけど、きっと自分の部屋に帰れば涙に変わるのだろう。
気づかないはずがない、おれはずっとナマエを見ていたから。
だから思うのだ、こんな顔をさせるおれで本当にいいのか、と。
何年も何年も、ナマエの笑顔に送り出されるおれは戦場に行くより勇気が出せないでいる。

戻ってきた彼は大怪我を負っていた。帰る船の中で適切な処置は受けていたが、まだダメージが溜まっているらしく帰るなりすぐ医務室に運ばれた。
交代で彼を看るのに名乗り出て、ずっと彼の寝顔を見ている。
この気持ちを彼に伝えて、この苦しさから逃れようとするのは卑怯なことに感じた。
彼や、私や、みんなの夢のために活躍する彼にこの気持ちを押し付けることがひどく独りよがりのように感じて、私はずっとずっとこのまま悩んで行くのだと思った。
けれど、それでもいい。彼が無事に戻ってきてくれると言うのなら、私はそれでもいい。誰かに肯定してほしかった。私の隠した恋心は正解であると、認めてほしかった。
そんな考え方も情けなくて静かに涙が溢れる。穏やかな彼の寝顔はとても愛おしかった。

死ぬならもう一度ナマエに会いたいと思った。
そう思った次の瞬間目覚めると本部の医務室で、そばにいるナマエは静かに涙を落として、それを拭っていた。そしておれの視線に気づいたナマエは拭ったはずの涙をまた零して「サボ…!」と呟く。
死ぬならもう一度、ナマエに会いたいとおれは願ったのだ。

サボは体を起こすと、私の手を取った。包帯だらけの体が痛々しくて「大丈夫?」と問うとサボは頭を横に振る。
そうして私の目を見て言うのだった。

「好きだ」

何度もおれを送り出すナマエを抱きしめたかった。そんな顔をしなくていい、と抱きしめたかった。
おれの言葉にナマエの涙はまたポロポロと落ちていった。声が出ないのかうん、うん、と泣きながら頷いては涙を拭うが、それも追いつかない。少しホッとした。おれはナマエに受け入れられたのだ。

「ずっと好きだった。勇気が出なくてごめんな」

サボに勇気がないとしたら、私は本当の勇気なんか知らないのだと思う。
ただただ嘆いて、泣くだけだ。そんな女のどこがいいのだと言ってやりたかったが声が出なかった。
精一杯首を横に振ると、サボは少し笑った。

「死ぬくらいなら言っときゃよかったって思ったんだ」
「死ぬとか、い、言わないで!死んだら殺すよ!」

死ぬならそれがいい、と思ったが言わなかった。
ナマエはおれの胸に雪崩れ込んでわんわん泣いた。
次からおれが遠征に行くときはこれくらい泣いてもらおう。そして、許してもらえるくらいキスをしよう。



20180206
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